六稿目 トニカクイトシイ
白い雪が、外ではらはら舞っている。
ただ歩くだけでも、寒さで体が冷えてくる。
「あーーさっみぃ。やっぱこの時期の夜の外出は嫌だわ……真っ暗だし何より寒い!!」
「そうかなぁ? 見渡す限り、銀世界ってのも風流で綺麗だと思うよ。あ、みてみて稀羅っち。あそこに雪だるまあるよ」
隣にいる彼女が、俺の腕を引いて先を急ごうとする。
本格的に冬となってきた今日、俺は九十九と外出していた。
どちらかといえば男性寄りのファッションを彼女は身に纏いながらも、防寒対策はばっちりだ。
雪を前にはしゃぐ姿は、なんだか子供のようで、少し意外にすら思ってしまったが。
「雪だるまくらい普通だろ……まったく、なんでこんな寒い夜に出歩かなきゃ……」
「やれやれお兄さん、忘れてもらっちゃあ困りますなぁ。クリスマスという恋人定番イベントの日に、シフト入れた人は誰だったかなぁ?」
「……すみません、なんでもありません」
「あははっ、冗談だよ。まあ稀羅っちらしいけどね」
そう、今日はクリスマスの3日前。
クリスマスといえば恋人の日、それが世間の普通だろう。
しかし俺は、そんなことさえ忘れて希望を出す前にバイトを入れられてしまった。
付き合ってから初めてだというのに、やってしまったと言うしかない。
その代わりと言って、彼女から代替デートを頼まれたわけだが。
「だからって夜にしなくてもいいだろ。シフト入れた俺への嫌がらせか?」
「もー違うよ、見に来たかったんだ。クリスマスって言ったら、イルミネーションでしょ」
話しながら、視界に眩しいものが目に入る。
そこには、豪華爛漫なイルミネーションが広がっていた。
並んでいる木々の一つ一つだけでなく、飾られたモニュメントにまで施されている。
何色もあるそのライトは、とても明るく綺麗だ。
その中心には、かなり高めのツリーがこれでもかというほどキラキラ輝いていてー……
「……全体的に眩しくね?」
「さすが稀羅っち。ロマンのかけらもないよね〜写真撮ってあげる」
「いやなんでだよ、いらねーわ」
「えーせっかく来たんだから、いいじゃん。みんなにリア充自慢できるよ?」
「そーじゃなくて、撮るなら一緒に撮るべきだろ。一人で撮ってどーすんだ」
そう言いながら、携帯を持つ彼女の腕をぐいっと引き寄せる。
あまりに強引すぎたのか、彼女の身体はよろけてしまった。
それを倒れないように、ぐっと支える。
……ん? これって側から見たら、俺が九十九を抱き寄せたことになるのでは……?
「わ、わるい! 俺、つい……! 大丈夫か!?」
「…………ほんと、ずるいよなぁ」
「え、何か言ったか?」
「ずるい、って言ったんだよ。無理言っちゃったから、楽しんでもらおうと思ってたのに……急に漫画の王子様みたいなことしないでよ……ただでさえ、余裕ないのに……」
そういう彼女の顔は、俺の胸に埋まって見えない。
それでも、シャツの一部をぎゅっと握っていた。
もしかして、照れているのだろうか。
あの九十九が? 表情が掴めないで苦労しまくっている、あの九十九が!?
「なあ、ちょっ、顔埋めるのやめろよ」
「やだ。こんな顔見て欲しくない」
「お前ズルくね?」
「……帽子、置いてくるんじゃなかった……人がお願いする時は、まったく参考にならないのに……そーゆーとこだよ」
そういう彼女は拗ねたように、ぷいっと顔をそらす。
一瞬だけ、頬が赤くなっているのが確認できた気がする。
九十九はいつも、飄々としている。
彼氏と彼女という関係性になっても、いつもと変わらない態度をとる。
正直、彼女の好きをどこまで鵜呑みにしていいかわからなかった。
だがそれは、余裕そうに見えていただけで、本当は彼女も緊張とかしていたのだろうか……
「ちょっと、何にやけてるの。気持ち悪いよ」
「そ、そんなにストレートに言わなくても……で、どうすんだよ。写真、とらねーの?」
「……撮るよ。嫌というほどカップル写真撮ってやる」
まだ拗ねているのか、なんて思いながらも彼女は俺の腕を離そうとしない。
そんな彼女がとても可愛らしくて、つい愛おしくも感じてしまう。
「まあ、リア充みせつけにはちょーどいいか」
雪が、上空を舞う。
繋がれた彼女の温もりは、寒さも気にならないくらいとても暖かかったー
(つづく!!)
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