四稿目 いちまいうわての九十九さん

文化祭一色だった秋が、もう直ぐ終わりを迎える。

11月だというのにどこかまだあったかい今の時期は、行楽シーズンといわれるほど人手が多い。

ただの週末でも、家族連れやカップルが多く見れるほどだ。


家から少し歩いた先にある駅で、俺は一人待っていた。

携帯の時間を見ては閉じ、見ては閉じを繰り返す。

やばい、マジで落ち着かない。こんなに緊張するのは、いつ以来だろうか。

彼女と俺は、何度か二人で会ったことがある。

それでも彼女と彼氏という関係性になってしまった以上、意識するなという方が無理だよなぁ。


「だーれだ」


そんなことを考えている最中、ふいに視界が暗くなる。

驚きのあまり変な声が出てしまったが、こんなことをするのはあいつしかいない。


「……何やってんだよ、九十九」


「ははっ、やっぱ即バレしちゃったか。一回でいいからやってみたかったんだよね〜これ」


視界が開けた先、九十九がにひひといじわるそうに笑う。

相変わらずのメッシュ入り帽子に、紺色のニットセーターにズボンとデートにしてはシンプルな格好だった。

とは言え彼女らしい、といえばそうなのだが。


「さ、いこうか。もたもたしてると、始まっちゃう」


彼女にせかされ、始まった映画を二人で見る。

思えば、女性と映画館なんて初めてな気がする。

そもそも映画館に行くこと自体が久しぶりで、なんだか落ち着かない。

僕に任せて、というものだから席の予約ごとお願いしたのだが……


「えーっと……九十九、さん? これは、一体……」


「カレカノの席は隣同士、基本中の基本でしょ?」


「任せろっていうから嫌な予感はしてたが……マジかよ」


「君って目を離すとすぅぐ逃げそうだから、上映中、ずぅっと手つないでてあげる」


そういいながら、いち早く席に座りかかる。

ここだよ、といわんばかりに手をぽんぽんし、俺を座るよう促す。

やれやれ、これじゃ映画の内容どころじゃないな……

仕方なく腰かけた俺の右手を、強引にてすりまで持ち上げると、案の定彼女は反対側の手で握る。

たった90分しかないものだったが、その時間は異様にも長く感じてしまっていたー




映画の内容は、とてもよかった。

アニメということもあってか、キャラクターの絵がまるで生きているように綺麗で鮮明。

ストーリーもしっかりしており、あまり興味がなかった俺ですら引き込まれてしまう。

それでもどこか落ち着かず、たまに隣に目をやってしまったのだが。


「いやぁ〜めちゃくちゃよかったなぁ〜ラストシーンどうするんだろーって思ってたけど、まさかああいう締め方があるとはね〜」


コーヒーをストローで混ぜながら、九十九が感心したようにいう。

映画の感想でも言い合おうと、俺達は映画館の近くにあった喫茶店で一服している。

見終わった後よほど内容がよかったのか、彼女はどこか興奮したような様子だった。


「稀羅っちはどうだった? 結構よかったでしょ?」


「アニメひっさびさに見たけど、結構よかったわ。なんか、めちゃくちゃ背景綺麗じゃなかったか? リアルすぎてびびったわ」


「それ、内容じゃなくてアニメに関しての感想じゃん。やっぱ稀羅っちって面白い」


「し、仕方ないだろ! お前のせいで内容どころじゃ……」


「もしかして、ドキドキして集中できなかった?」


しまった、と思った時にはもう遅かった。

俺の言葉に、彼女はにやりと笑う。

してやったり、と言わんばかりの顔で、なんとも楽しそうに見えて……


「映画中に手握るの、効果抜群ってことだね~早速ネタにしよ~っと」


「お、お前なあ……他人事だと思って……」


「言っとくけど、僕だって同じだよ。手汗出てないかなーって……正直映画どころじゃなかった」


頬を赤く染めながら、彼女はてへっと舌を出す。

九十九も、同じように感じていたのだろうか。

それが分かった途端、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきて……


「二人してそれじゃダメだろ……映画見に来た意味ねぇじゃん」


「あはは、確かに。DVD出たら、もっかいリベンジしよーよ」


「いいけど、ちゃんと内容に集中しろよな」


「えーそれ稀羅っちが言う~?」


楽しくもあっという間な時間が、過ぎていく。

こんなデートも悪くない、なんて思ってしまう。

そのあとも俺は、時間の許す限り、彼女と二人で話していたのだったー


(つづく!!)

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