相愛 -√TSUKUMO TOMORI-

一稿目 上杉、文化祭くるってよ。 Part1

パンパン、と花火が散る。


杓璃祭、とかかれた看板が青空の下に立つ。

すれ違う人はみな、楽しそうでその中をかきわけるように足を進める、

時計の針が、11時をさす。

俺が文化祭を回りたいと思った相手はー






「これで全部だよね? じゃ、ここ置いとくから」


「よ、やってんな」


メッシュ入りの帽子が、こちらを向く。

俺の姿を確認するが否や、彼女はくすりと笑みを浮かべる。


「お、時間ぴったり。来てくれたんだ」


「たまたま暇だったからな。冊子買いにきたぞ」


九十九灯織。総合学科、漫画コース所属の大学3年生。

常に飄々としているせいか、掴みどころがない性格。

身のこなしが軽く、体育系文化系問わずなんでもできてしまう器用さを持つ。

んでもって何を考えてるか、結構読み取りづらいんだよなぁ~……


「へぇ、本当にきてくれたんだ。でもなぁ、ただで冊子あげるってのもつまんないと思わない?」


「は? 俺の金で買うんだから、ただじゃねーだろ」


「そーだけどー……あ、じゃあこうしようよ。僕のわがままを聞いてくれたら、ただで冊子をプレゼントするよ。どう? 君にとっては悪い話ではないでしょ?」


何か企んでいるのか、にやりと笑みを浮かべる。

こうなった九十九は止めることができない。

おとなしくオッケーしろ、ということなのか……


「はいはい、わかったよ。それで? 何すりゃいいんだ?」


「ふっふっふ〜稀羅っちにはぁ、この文化祭の間、僕の彼氏として一緒に回ってもらいまーす」


「…………は?」


「わー稀羅っちってば顔怖ーい。そんなに怒らないでよ〜サークルのおかげなのか、学内外問わず有名人らしくてさ。声かけられること多くて困るんだよね〜ナンパ対策的なものだと思ってよ」


確かにこいつは顔がいい。

北斗のように、他校の生徒でも構わず声をかけてくるような奴がいないと言う保証もない。

だが九十九の性格上、俺がいなくても大丈夫な気もするが……ここはこいつのためだ、これくらいは飲んでやるか。


「……おう、わかった。今回だけな」


「やぁりぃ~んじゃ、早速」


そういうと、彼女は俺の腕を掴む。

いきなりのことに驚きつつも、彼女は向こうのほうを指差し……


「行こうっ、稀羅っち」


その笑顔はいつもよりも楽しそうで、どこか嬉しそうで。

彼女の見慣れない姿に俺は、密かに視線をそらしたのだった。




そういえば、彼氏のふりなんて何をすればいいのだろう。

おもむろに歩きながら、ふとそんなことを考えていた。

九十九自身、あまり深く考えていないのか、いつも通りにスキップしながら先を歩いている。


周りにいるカップルは皆、手をつないでいたり仲睦まじく話していたり……見ているこっちが恥ずかしい。

まあこれは、あくまでもナンパ対策だ。

ふりとはいえ俺にはあんなマネ、できそうにねぇな……


「あれ、あそこにいるのって君の友達じゃない? おーい」


彼女の声に、ようやく顔を上げる。

手を振る先には、澄ました笑顔を向けるあいつがいて……


「九十九さん。それに、稀羅も。こんなところで、奇遇だな」


毛利昴。友人の一人。

彼のそばには相変わらず女子が群がっていて、人気なのが一目でわかる。

それでも自慢しようとせず、むしろ鼻にさえかけないのがこいつのいいところなんだが。


「よ、昴。相変わらずモテモテだな、お前は」


「これはこれでちょっと困るんだがな……よかったら、うちのサークル見ていかないか?」


そういえば、昴は天文サークルでプラネタリウムをする……とか言ってたな。

今日のことで頭がいっぱいで忘れてたが……

プラネタリウムかぁ、正直あんまいい思い出ないんだよなあ。


「へぇ~面白そう〜せっかくだから行こうよ、稀羅っち」


「え、でも俺星とか詳しくねぇぞ?」


「いいって、そんなのきにしないし。それにプラネタリウムって、なんかデートっぽくない?」


にひひと笑うこいつの言葉は、本心なのか否か……

相変わらず読み取れない意図に、仕方なくも同意する。

昴に案内されながら、ゆっくり中に入っていくと……


「……すげぇ」


予想以上に、しっかりとした星空だった。

すでに何組か人もおり、みんな釘付けになっている。

映し出しているのは、博物館でよく見るあの機械だ。

どこかから借りたのだろうか。てっきり手作りだと思っていたから、こんなにきれいだとは思っておらず……


「君の名前、男の子にしては変な名前だよね。特長的、っていうかさ。星の名前から来てるって知った時は、ちょっとびっくりした」


空に浮かぶ星々に手を伸ばしながら、九十九が言う。

その横顔を見ないように、星に視線を向けたまま話した。


「……そうだけど、よく知ってるな」


「ネタの参考になるかな~って思って、星を調べたことあるんだ。夜空にきらきらと光り輝く無数の星。綺羅星。金星のこともいうんだっけ」


「あー……その話、うちの親から何回も聞かされたよ」


プラネタリウムはお母さんたちの思い出の場所。

小さいころから、耳がタコになるほど聞かされていた。

母も父も星が好きで、よく一緒に来ていたらしい。

付き合い始めたのも、プロポーズをしたのも同じ場所だったとか……


「うちの親、本当にバカップルでな。いつどこでもその話してたから、おかげで星見るのもそんなに好きじゃねーんだ。まったく困った両親だよ」


「そうかな? 素敵なことじゃん。それに星はきれいだよ? 時間や四季によって、見える星座も見え方も違ってくるから」


その声に、思わず横へ視線を移す。

まっすぐ星を見ている九十九の瞳はきらきら輝いていた。

今までに見たことないくらい美しく、綺麗でー


「僕は好きだよ。星も、稀羅って名前も」


その言葉と同時に、彼女は俺の手を握る。

目を見てくすりと笑う彼女に、俺は視線をそらしてしまう。

こころなしか、なぜか体が熱くなってきて……


「あっれ~? 稀羅っち照れてる~?」


「べ、別に照れてねーし」


「あははっ、意外とかわいいとこあるじゃん」


「も、もういいだろ! 他行くぞ!」


そういいながら、繋がれた手を強引に引っ張る。

違うと自分に言い聞かせながらも、ちらりと後ろに目が向いてしまう。

引っ張られているというのに、彼女の顔はどこか嬉しそうに見えたー


(つづく!!)

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