六品目 月永石:純粋な愛


白い雪が、外ではらはら舞っている。

ドアが開くたびに、冷えた風が入ってくる。


「さっむ……こりゃ、今日雪降るな、絶対」


誰に言うわけもなく、一人ぼそりとつぶやく。

こちらを見ている視線にきづき、俺は待っていた人に向けてどうぞ〜と声をかけてみせた。


本格的に冬となってきたこの頃、俺はバイトのシフトに入っていた。

中でも今日は入ってくる人みんな、どこか浮かれているようにみえる。

買うものも豪華なものばかりで、中でも多いのがケーキ類だ。

それもそのはず。今日がクリスマスだからだ。


クリスマスといえば恋人の日、それが世間の普通だろう。

しかし俺は、そんなことさえ忘れて希望を出す前にバイトを入れられてしまった。

付き合ってから初めてだというのに、やってしまったと言うしかない。

現に湯浅も、初めて言った時はキレかかる手前だったし……


「こう言う時って、お詫びになんか買ってた方がいいのかねぇ〜……」


初めて付き合って、初めて迎えるクリスマス。

何もかもがわからなすぎて、どうしていいかわからない。

うちの両親は、二人仲良くどこかに行く。

毎年よくやるなぁ、なんて思っていたが、今となっては少し羨ましくも思ってしまうようなー……


「ねえ、ちょっといいかしら」


「はーい、何かお探しですかー?」


「あんた」


「……は?」


「だから、あんたが欲しいんだけど」


ぱっと顔を上げると、そこにはコートを着た湯浅がいた。

いつものツインテールではなく、のばした髪をパーマ風に巻かれている。

あまりの来訪すぎて、つい変な声が出てしまい……


「ゆゆゆゆ湯浅!!!? なんでここに!」


「前にここであったこと、もう忘れたの? あんたのバイト先は把握済みよ」


「いや、でも、なんで……」


「シフト、夕方までって言ってたわよね? だから、迎えに来たわ。せっかくのクリスマスなのに、何もしないなんて嫌だもの」


不機嫌そうにつぶやく彼女は、車で待ってるからとだけ言ってさっさと行ってしまう。

まさか、そんなことあるのだろうか。

会いたいと思っていた彼女から、直々に来てくれるなんて。

とはいえ、やはり彼女は機嫌が悪いのには違いない。俺が出来ることをせねば……そんなことを考えながら、バイトが終わる時間をまだかと待ち続けていた。



「と〜ちゃくっと。どう? 稀羅。あたしからの、サプライズプレゼントは」


車を止めた彼女が、嬉しそうに笑う。

走らせること20分弱。着いたのは、高級フレンチレストランだった。

ただのレストランでも、クリスマス時期は予約が取れないと言う。

うちの両親も、この日だけは戦争だとか言って結構前から張り切っていた。

が、着いた場所は、そんじょそこらのレストランとは比べ物にならないくらい人気の店だった。


「こ、ここって確か、予約めちゃくちゃ難しいとこだろ? よく予約取れたな、こんな時期に」


「あたしに感謝することね。これでも大変だったんだから」


「普通は予定開けなかったことに怒るんだが……お前、マジですげえな」


「憧れてたのよねぇ。クリスマスにレストランでディナー……なんて、大人のデートって感じがしない?」


そう言いながら、彼女は白ワインを嗜む。

若干酒が進んだせいなのか、流暢に回る口調はどこかご機嫌だった。

もしかして彼女は、ずっと予約を取ろうと頑張っていたのだろうか。

例えば俺がバイトでも、二人で過ごせるようにー


「ここ、タワーのイルミネーションまでみえて、ロケーションかなりいいの。せっかくのクリスマスなのに、あんた一人で過ごすなんてかわいそうじゃない?」


「俺の気遣いかよ。自分が寂しかった、が本音なんじゃねーのー?」


「寂しいに決まってるじゃない。付き合って初めてのクリスマスなのに、あんたがいないなんて耐えられないわ」


酒が入っているせいなのか、今日の彼女はやけに素直に感じてしまう。

それでも自我はあるのか、恥ずかしそうに顔をそらす。

こんなに愛おしいとは、誰が思っただろう。


「じゃ、せっかくだし楽しむとするか。お詫びつっちゃああれだが、ケーキでも奢ってやるぞ」


「言ったわね? じゃあ、あたしクリスマス限定パフェが食べたいわ。半分こにしましょっ、稀羅」


ワインに入った氷が、揺れる。

グラス越しに笑う彼女の笑みは、いつにも増して綺麗で輝いて見えたー


(つづく!!)

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