四品目 瑠璃:幸運
秋の木々が色づく季節。
家から少し歩いた先にある駅で、俺は一人待っていた。
携帯の時間を見ては閉じ、見ては閉じを繰り返す。
やばい、マジで落ち着かない。こんなに緊張するのは、いつ以来だろうか。
彼女と俺は、何度か二人で会ったことがある。
それでも彼女と彼氏という関係性になってしまった以上、意識するなという方が無理だよなぁ。
「あ、いた。稀羅、おまたせ」
聞き慣れた声がする。
パッと顔を上げると、歩道に寄せた赤い車が目の前にあった。
運転席から降りてきた彼女は、ぶっきらぼうに「おはよ」と呟く。
ニットのカットセーターTシャツに、足長のパンツは
あまりの光景に、俺は言葉すらうまく出てこなかって……
「ちょっと、何ぼさっと突っ立ってんのよ。早く乗りなさいよ」
「あ、悪い……予想以上に様になってんなーと、つい見とれちまった……」
「なっ! ち、調子のいいこと言わないでよ! そもそもあんたが車持ってないのがいけないんでしょ!?」
照れ隠しとばかりに彼女は叫ぶ。
今日は俺が見つけたスイーツバイキングの店に行くために、車で行くことになった。
しかし俺は、ろくに運転できるのはバイクだけ。
車に関しては車校で乗った以来のペーパーで、自分の車さえもっていない。
女の子である湯浅に頼んでしまって情けない、なんて思っていたが……想像通り、運転姿が似合いすぎていて何もいえねぇ……
「ったく、早く乗りなさいよ! 言っとくけど、運転が荒いとかスピードが遅いとか、文句は一切受け付けないから!」
そういって、強引に助手席の方へ座らせられる。
車内はどこをみても綺麗にされていて、フレグランスの香りが漂っている。
お守りの他、ミラーのところにはドリームキャッチャーはあのアクセサリーが飾られていて、なんとも彼女らしさを感じてしまう。
「そういえば、成り行きで付き合わせちゃってるけど、そもそもあんた甘いもの食べれるの?」
オーディオから、ハードロック調の音楽が鳴り響く。
そんな中、彼女は俺を横まで見ながら声をかけてきた。
運転中だからと話さないように携帯をいじってたが……慣れているだけあって、話しながらでもお手のものってことか。
「まあ、嫌いではないかな。自分だけじゃ食べねえけど」
「ふうん、じゃあ何が好きなの?」
「え? あー……辛いもの?」
「今から食べに行くものと真逆じゃない。ま、あたしも嫌いではないけどね。麻婆豆腐とか、結構好きよ」
「へぇ、じゃああそこ知ってるか? 駅前にある中華料理店なんだけど、あそこの麻婆豆腐が絶品でさ」
会話が、弾んでゆく。
湯浅の運転はとにかく安定していた。
車線変更も、駐車も難なくこなす。
そんな中、あっという間に現地に着いてしまい……
「なんつーか、快適すぎてあっという間だったわ……ありがとな、湯浅。あとでジュースとか奢らせてくれ」
「いいわよ、別に。そのかわり……さっき言ってた中華料理店……場所知らないの。今度、連れて行きなさい」
ちらちら俺の顔をみながら、照れたように頬を赤く染める。
「行かない?」ではなく、「行きなさい」。
疑問系ではなく命令形なところが、なんとも彼女らしいと思ってしまう。
そんな彼女へ返事をするかわりに、俺は片手を差し出し、
「じゃあ、次はそこに決まりだな」
と笑ってみせる。
差し出された右手に湯浅は戸惑いながら、そっと握り返してくれる。
繋がれた手は、どこかこそばしさもあったが、とても温かく感じられたー……
(つづく!!)
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