二品目 紅玉:愛の象徴 完成

その後、ミスコンは滞りなく進んだ。

会場のボルテージは常に上がっていて、次から次に出てくる可愛く、美しく、そして綺麗な女子に歓声が湧く。


確かにどの人も綺麗だ、目を引くものがある。

なんて失礼なことを思いながら、会長としばらく眺めていた俺だったがー


「次は急遽代理で参加!! エントリーナンバー8番、ゆりあさんです!!」


その瞬間、割れんばかりの歓声が大きく上がる。

そこには赤い髪を靡かせ、まるで別人を思わせるかのような化粧をほどこした湯浅がいた。

同じ衣装を着ているというのに、どこの誰よりも圧倒的に綺麗で、美しくて。

思わず、みとれてしまった。言葉すら、出てこないくらいに。

どれをとっても目を引くものばかりだったが、その中で雪の結晶を模ったネックレスだけが一際目立っていて……


「やはり、ありすは美しいね。そのことに本人が全く気づいてないのが難点といったところだけど」


隣にいる会長が、感傷に浸るようにいう。

舞台を眺めるその瞳は、まっすぐ彼女に向けられていて、注目されていることが嬉しそうに見えた。

確か、湯浅と会長は高校が同じだったはず。

性別は違えど、付き合いが長いせいなのか彼が女として生活していたことを知っていた唯一の理解者だ。

そのことを知っている……からだろうか。すごく、モヤモヤしてしまって……


「それではみなさん! いっちばん可愛い、美しい番号に手をあげてくださーーーい!!」





「悪かったわね、付き合わせて。どうだった? あたしのステージは」


ネックレスを箱に直しながら、彼女はいう。

俺の隣を歩く湯浅は、すっかり元通りのツインテールと化粧に戻っていた。

ミスコンは無事に終わり、今は展示が始まったという彼女の教室に向かっている。


ミスコンの結果は惜しくも二位、それでもあの人はどこの誰なのかと噂でもちきりだった。

そんなことを知る由もない彼女は、なぜか風紀委員とかかれた腕章をつけたまま回っており、そのせいですれ違う人々は皆彼女が来るとしゃんと背筋を伸ばそうとする。

まるで、先生が説教しに来た緊張感と、同じように。


「……なあ、なんで偽名で出たんだよ。他の人は学科とかも公表してんのに。代理とはいえ勿体ねぇだろ」


「いーの。あたしだって知らない方が、みんな見る気になるでしょ」


「そ、そんなことは……」


「あたしとしては、これを披露できただけで充分よ」


役目を終えたネックレスを撫でるように、大事そうにしまう。

あくまでも自分はおまけ、とでもいうように。

正直、ミスコンに出てる人は世間的には可愛く、そして美人だと言われるに相応しい人だと思う。

けれど、俺にはいまいちピンとこなかった。

きっとそれは、俺の心の中にある感情が芽生えていることだからー……


「さ、着いたわよ。お待ちかね、これがあたしから送る、あんたへの特別アクセサリーよ!!」


そういうと、彼女は部屋を開ける。

そこに広がっていたのは、太陽系の惑星を模った銀色のネックレスだった。

散りばめられた白い斑点は夜空に浮かぶ星のようで、とても精巧に作られているのがわかる。

ただ一つだけ、疑問だったのは男の俺には不釣り合いなピンク色の宝石が主に使われていることでー…。


「すげーな、こーいうのも作れるって……でも湯浅、なんでピンクなんだ? 俺だけの特別なアクセサリーなのに、さすがにピンクは……」


「この宝石、ローズクォーツっていうの。愛の石って呼ばれててね、愛情やロマンスを引き寄せる力があるらしいわ」


「ふーん……え? それってどういう……」


「好きよ、稀羅。これから先、何があろうともあたしだけを見なさい」


彼女の瞳が、真っ直ぐ俺に向く。

その目は真剣そのものだった。

あまりの綺麗さに見とれてしまった俺は、言葉さえも失ってしまい……


「ちょっと返事は!?」


「はえ? えっとぉ……なんだっけ」


「はぁ!? 人が告白してる時に、ぼーっとするなんて!! 失礼にもほどがあるでしょ!? 信じらんない! 最っ低!!!」


「いや、予想外すぎてつい……でも、なんで俺……」


「なんでもくそもないわよ! あんたがあたしを好きにさせたんでしょ!? 責任取りなさいよ!」


半ば逆切れのようになっているのは、気のせいだろうか。

ふと見ると、彼女の顔はりんごのように真っ赤になっていた。

わなわな震えている手は、怒りというよりも焦りのように見えてー


「とにかく、あんたの気持ちを聞きたいって言ってんの! それとも、あたしの告白に返事できない理由があるわけ!?」


「分かった、分かったから。とればいいんだろ、責任」


「分かればいい……え!?!? 今、なんて……!」


「ここにいる時点で、俺の答えなんて決まってる……だろ?」


正義感が強く、誰に対しても屈しないその背中にどこか憧れていた。

それでも彼女と接すればするほど、奥にある弱さに気付いていく。

誰かに助けてほしくても、常に強くあろうと虚勢を張る。


そんな彼女を、支えたいと思った。

時折見せる笑顔がかわいく、堂々と人の前に立つ背中はかっこいい。

気が付いた頃にはすでに、俺は彼女にひかれていたということなんだろうかー


「嘘っ、本当に、本当に責任取ってくれるの!?」


「二度も言わせるなよ、恥ずかしいんだから……嫌だってんなら別にいいけど……」


「そ、そんなこと言ってないでしょ!? し、仕方ないから、一緒にいてあげてもいいわよ? 感謝しなさいよね!」


ぷいっとそっぽを向きながら、相変わらずの言葉を発する。

ふとみえたその横顔は、どこか嬉しそうに見えたー


(つづく!)

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