相愛 -√ARISU YUASA -

一品目 紅玉:愛の象徴 工程

パンパン、と花火が散る。

杓璃祭、とかかれた看板が青空の下に立つ。

すれ違う人はみな、楽しそうでその中をかきわけるように足を進める、

時計の針が、11時を指す。

俺が文化祭を回りたいと思った相手はー




「あちこちゴミの放置がひどいわね……出店してる人達に注意してもらうように頼もうかしら……いや、それよりもゴミ箱の設置を少し増やして……」


「何一人でぶつぶつ言ってんだ?」


二つに縛られた赤髪が、振り向く。

俺の顔を見るが否や、彼女の顔色はますます不機嫌になる。


「……なんであんたがここにいるのよ」


「探したよ、学科の先輩に聞いたら、ここだって言われてさ。きちゃまずかったか?」


「べっ、別にそんなこと言ってないでしょ! ただびっくりしただけよ!」


湯浅ありす。生活デザイン総合学科のファッションコースに所属する、俺より二つ上の大学四年生。

ダメなものをダメと言える正義感があり、とにかく気が強い人だ。

そのせいで鬼の風紀委員長、なんて呼ばれているらしく、大体が怒ってばかりで怖がられることが多い。


が、意外にも甘いものが好きで表情がコロコロ変わる……こうみえて親しみやすい人なんだよなぁ。


「展示って11時からじゃなかったか? 教室まで行ったら、まだ準備中になってたけど」


「ああ、あれ。ややこしいでしょ、先に販売から開始するの。展示は最後の仕上げとかで色々と調整があってね。先に、風紀委員の見回りをやってたの」


「あー、もしかして忙しかったか?」


「そ、そんなことないわ! 今終わったとこだし……い、言っとくけど、あんたと文化祭回りたくて先に終わらせたとか、そんなんじゃないから!」


そういいながら、照れたように彼女はそっぽを向く。

その様子がなんとも可愛らしくて、つい視線を逸らしてしまう。

わざわざ俺と回るために仕事を済ませてくれていた、なんて聞かされたら、つい浮かれてしまう……


「じ、じゃあ適当にどっか回るか。行きたいとことかあるか?」


「大体の目星はつけてあるの。まずは出店を回りましょう!」


そういいながら、自分のパンフレットを俺に見せてくる。

パンフレットには丸や彼女のメモが書いてあって、あからさまに楽しみにしてきたのがみえみえだ。

その中には、絶対行く! とかかれたものもあって……


「なぁ、ここってなんの……」


「ほら早くいきましょう! あたし、パフェがたべたいわっ!」


声を弾ませながら、彼女は俺の手を掴む。

楽しさのあまりに気づいていないのか、戸惑いを隠せなかったー



その後の湯浅は、本当に楽しそうだった。

ありとあらゆる出店のスイーツを買っては、人の目を気にしてなのか裏道に隠れてさぞ美味しそうに頬張る。

と思いきや、よくない行動をしている人がいればすぐに風紀委員として怒る。


正直、忙しい人だと思ってしまう。

スイーツを食べている時だけじゃない、話しているだけでも彼女は普通の女の子だ。

そっちの面を表に出してしまえば、それなりに誤解だってとけると思うのだが……


「そろそろ時間ね。稀羅、行きたいところあるんだけど、いいかしら?」


「いいけど……もしかして、絶対行くって書いてあったところか?」


「そ、そんなとこまで見なくていいわよ!! ミスコンが開催されるのよ。服飾コースが主にやってるんだけど、その中にあたしが作ったアクセを使いたいって人がいて、反応を見たいのよ」


なるほど、そういうことか。

自分の作ったアクセサリーをミスコンにつけてくれるなんて、結構すごいことだ。

ミスコンなんて、見ようとも思ったことなかったから、正直どんなものかもわからないが。

心なしかテンションが高めな彼女の後をついていきながら、校内にある踊り場までいくと……


「そ、そんな急に言われても困るよ。僕はまだ、見回りとかの仕事があって……」


聞き慣れた声がする。

何人もの女子に囲まれ、オドオドしている人には見覚えがあった。

それは彼女も同じなようで、彼の姿を見た途端怪訝に顔をしかめる。


「……あんた、そこで何してるの」


「ああ、ありす! ちょうどいいところに!」


そこにいたのは、なんともあろうことか生徒会長だった。

小早川三星こばやかわみほ、もとい直江李音なおえりおんは俺の憧れだった人だ。

芸能音楽科に所属しており、家の事情もあってか女として過ごしていたらしい。

昨日の前夜祭にて全てを明かし、迷っていた俺に一人選ぶべきだと道を示してくれた人でもあり……


「おや、上杉君も一緒なんだね。お疲れ様」


「お疲れ様です。こんなところで何やってるんですか?」


「じ、実はありすのアクセを使って出るはずだった子が、欠席になったみたいで……」


「はぁ!!? 何よそれ!!」


「たまたま見回りで通りかかったんだけど、会長なら絶対勝てる、と押しかけられていたところなんだ」


彼の言葉を聞いて、なるほどなと勝手に納得してしまう。

確かに会長は、4年間も女性としてたくさんの人を欺いてきた。

おそらく、知らない人は簡単に騙せてしまうだろう。

会長の見た目をもってしたら、優勝なんて確実だ。

まあだからといって、男だとバラした上で女装をするのはまた別の話だとは思うが……


「昨日あんなステージかましてるくせに、何言ってんのよ! それくらいでなさいよ!」


「で、でも……これ以上女性として騙すわけには……そもそも僕は男だし……」


「はぁ? 信じらんない! あたしのアクセが日の目をみないなんて、ありえない! ちょっといってくるわ!」


「えっ、行くってどこに!」


「そんなの、ステージに決まってるでしょう」


そういうと、彼女はなぜか髪をおろしてしまう。

ステージ裏の方へ歩いていくその背中はいつにも増して大きく見えて、とてもかっこよくみえて……


「みてなさい、稀羅。このあたしが作ったって堂々と見せびらかしてくるから」


湯浅が勝気に笑う。

長い髪をなびかせる彼女の姿が、しばらく目に焼き付いて離れなかったー


(つづく!!)

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