page.7 襲来、煩塁すぎる好敵手


「皆さん、もう来年から三年生です。単位を落としている場合じゃないですからね~補修の人は、ここまでしっかりとってくださ~い」


ホームルーム担当の先生が、生徒全員に言う。

わいわいと周りの生徒がざわめきだす横で、俺はひそかにため息をついた。


年を越し、いよいよ大学二年の講義がすべて終わろうとしている。

最後のテストとだけあって、難しい科目の方が多かった。

幸い、補修を受けるまでには至らなかったが……


「お疲れ、稀羅。補修は大丈夫そうか?」


友人の昴が、優しく微笑む。

相変わらず全教科余裕でクリアしたこいつは、何ら心配もない。

かたや北斗は、相も変わらず補修者の名前に全部書かれていたが……


「ああ、一応大丈夫だったぜ。どこかの誰かさんとは違ってな」


「一応とはなんだ、このリア充め。彼女ができてさぞ幸せなお前に、俺の気持ちなどわかるまい」


厭味ったらしく言う北斗に、昴がまあまあとたしなめる。

二人にはすでに、彼女ができたことは報告した。

相手は誰だとか、尋問が激しかったが、今となっては過去の話だ。

とはいえ北斗だけは、文化祭の時に何となく察していたらしいが……


「お前、最近野神の学科にめちゃめちゃ行ってるだろ。野神から聞いたぞ、この前もあったって」


「転科試験を受ける、と聞いてな。経験者として、アドバイスをしてあげただけだ」


「そういえば、北斗は元調理師コースだったっけ。そこからどう転んだら、教師になるんだか」


「ふん、公務員ほど安定した職業はない。それに……公務員の方が、結婚率が高い!!」


なんとも不純な動機を語るこいつは、元をたどると調理師コースとして一年過ごしていた過去がある。

モテるためありとあらゆる料理の腕がある彼だったが、女子受けが悪いと思ったのか教養学科に転科した。

とはいえ成績はいつもぎりぎり、もはや調理師を目指した方が優秀だったような気もするが。


何もかも女性基準なこいつをみていると、不安よりも羨ましさが勝つ気がする。

それだけ思い切りや決意だけで、チャンスをものにしてしまっているし……


「くっだらね。ちょっと野神のとこ行ってくるわ。あんまり野神に変なこと吹き込むなよ?」


「オレは彼女は欲しい、が。人の彼女を取るような真似はしない……あくまでも、その子を好きにならなかった場合に限るが」


「……は? お前、好きになったやつとかいねぇだろ」


「ああ。今までは、な」


そういいながら、北斗は眼鏡をかちゃりとかけなおす。

その目がどこか真剣で、見ているこっちが圧倒されてしまいそうだった。





【見たまえ、上杉少年!! これが吾輩の、実力である!!!】


昼休み、いつもの講義室にて彼女がバーンと見せてくる。

それはなんと転科試験の結果通知で、そこには堂々と合格と書かれていて……


「おお!!! すげぇな、野神!」


「えっへん。これで私も一人前」


「これで、声優も夢じゃないな」


「あと、上杉にお願い。これ、お友達に……伊達さんに渡して」


彼女の口から出た名前に、食べる手が止まる。

まさか名前まで覚えているとは、思わなかった。

しかも彼女が渡してと言ってきたのは、ラビット将軍に似た眼鏡をかけたうさぎのぬいぐるみで……


「転科試験のことで、たくさんお世話になった。だから、そのお礼に作ったの。結構そっくりに作ったつもり」


「……ふ、ふーん。結構仲良い、んだな……」


「上杉、悲しんでる? 何かあった?」


人の彼女を取るような真似はしない、あくまでも、その子を好きにならなかった場合に限る。

そう、北斗は言っていた。


あいつは本当にモテることに貪欲だ。

それ故勢いがすごいし、何よりやることなすことがすべて女子中心である。

誰か一人決めてしまえば、性格に難はあるがそれなりにうまく行くんじゃないかと……そう思っていた。


人を好きになる。

彼の場合、あり得ないと思っていた。

女性なら誰でもいい、ととにかく口説きまくっていたから。

それが変わったというのなら、危機感を覚えるべきなのかもしれない。

現にあいつは俺とは違って、女子が喜ぶようなことを考えて行動できるやつでー……


「……もしかして、嫌だった? 私が他の人に、渡すの」


「えっ、あ、いや、そんなつもりは……」


「上杉のそんな顔、みたくない。上杉には笑ってほしい」


そういうと彼女は、俺を慰めるかのようにぎゅっと抱きしめてくれる。

それがなんだか恥ずかしくて、すぐに受け入れがたかった。

今すぐに離れないと……心ではわかってはいるものの、なぜか離れたくないと感じてしまって……


「大丈夫、私いつでも上杉のもの。離れたりしないよ」


「……簡単にいうなぁ、お前」


「上杉が私のこと好きでいてくれる。それだけで、私嬉しい」


猫が擦り寄るように、彼女は顔を俺の体の中にうずめる。

なんとも可愛らしくて、いじらしい姿だろう。

いつから俺は、こんなにも彼女のことを愛しいと思うようになってしまったのだろうかー……


「それにしても、上杉あったかい。一家に一台ほしい」


「俺は家電かよ。まあでも……そうだな。寒い時くらいは、こーするのも悪くない、かな」


冬が深まる、寒い季節。

心なしか、俺の心は陽だまりに照らされたように暖かかったー


(つづく!!)

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