page.6 天花舞う聖夜の縁

白い雪が、外ではらはら舞っている。

はあっと吐く息が、空に溶けて消えてゆく。


「さっむ!!! マジで寒いな、今日! 雪降るって言ってたぞ」


[この程度の寒さで根を上げるとは、情けないぞ! 上杉少年。私を見ろ! ヒーローたるもの、雪が降ろうと雹が降ろうと、痛くもかゆくもない!!]


「全身防寒着着てるやつに言われても全く説得力ねえっつーの」


ため息交じりにはあっと吐く息が、白く空気に溶けていく。

野神は、少し考えながら


「じゃあ、お裾分け」


と、もこもこした手袋を俺の顔につけてくれた。


本格的に冬となってきた今日、俺は野神と駅で待ち合わせをしていた。

長いマフラーに耳まで隠れてる仕様のニット帽、さらにはあったかそうなロングコートとこれでもかというほど寒さ対策ばっちりである。

それでもコートの中から見えるガーリーなブラウスワンピースがあざとく見えて、彼女らしささえもうかがえる。

まったくこいつは、こういう技をどこで覚えてくるのだろか……


「ところで上杉、ちゃんとあれは持ってきた?」


「ああ、一応予約はしてたしな。急に食べたいって言った時は驚いたが……本当に許可貰ったんだろうな?」


「大丈夫。今日はみんな、誰もいないから」


それは大丈夫であって大丈夫ではない気がするのだが……

今日、という日はおそらく彼氏彼女にとっては特別な日。

十二月二十四日。そう、クリスマスイブである。


本来、クリスマスは明日なのだが、すっかり忘れてバイトを入れてしまっていた俺に野神が、


「じゃあイヴ、うちにきて。パーティーしたい」


といってきたのだ。

駅まで電車で20分、そこから徒歩で10分くらいの場所にある彼女の家の前まで来てしまったのだが……

正直に言おう。気が気じゃねぇ!!


この前の転科試験の件で兄三人に悪者扱いされている上に、彼氏ということまでばらされた男が家に上がるんだぜ? 俺だったら絶対嫌だ。

それ抜きでも女子の家に男一人であがろうってんだから、それはそれでもう緊張するしかない。

こんなことなら、俺の家を提案するべきだったなあ……とはいえあのバカップル両親にばれるのも嫌っちゃ嫌なんだが。


「お、お邪魔しまーす」


「上杉、みて。私、頑張った」


俺が上がるが否や、彼女は手を引っ張っていく。

綺麗にされた廊下を通り抜け、正面にあるドアを開けると、そこに広がったのはー


「うっわ、すげ」


壁一面に飾られたオーナメントの数々が、キラキラ点灯している。

ラビット将軍を始めたとされたぬいぐるみが、あちらこちらに置かれていて、まるで彼らがパーティーしているかのようだ。

そう見えるように、装飾されているのだろうか。

うちにも置かれているクリスマスツリーよりもはるかに高いツリーにも、たくさんきらびやかな飾り付けがされていて……


「これ、野神が全部やったのか? めちゃくちゃ器用だな」


「私の家、毎年豪華。いつもはお兄ちゃんたちにお任せするんだけど、今年は一人で頑張った」


「何度も聞くようで悪いが、本っ当に大丈夫なんだろうな? ちゃんとお兄さんたちに納得してもらってんのか?」


「お兄ちゃんたち、みんな家族いる。パパとママにも、友達が来るって言ってある」


「それならまだ……ってよくねぇだろ!!」


「上杉、お腹すいた。早くケーキ」


こいつには羞恥心、というものはないのだろうか。

正直、意識しているこっちが馬鹿らしくなる。

それが野神らしい、っちゃらしいのだが。

こんなにも差があると、少しだけ思ってしまう。

彼女の好きは、本当に恋愛としての好きなのか、とー


「チョコとショートとあるぜ。好きなの選んでいいぞ」


「チョコレートがいい。あ、でもショートケーキも食べたい」


「二個しか持ってきてねぇんだから、わがまま言うな」


「じゃあ食べあいっこしよ。一口ちょーだい」


そういうが否や、食べさせろとばかりに口を開ける。

なんとも罪深い奴だ、こういうのを難なくやってしまう。

これが女性と男性の違い、とでもいうのか? とてもじゃないが俺にはまねできねぇ……


「お前って、本当に俺のこと好き……なのか?」


「? うん、好き」


「にしては平然としすぎなんだよ。俺が会長を好きだったのと同じで、憧れと履き違えてねぇか?」


「……」


俺が言うと、彼女はむすっとほっぺを膨らまし、のそのそと俺の方へ近づいてくる。

何を思ったのか、彼女は俺の指を手に取ってみせた。

すると、俺の指が自分の脈にあたる場所まで運んでみせる。

その瞬間、彼女の鼓動が早いのが伝わってきて……


「……すごいドキドキしてるの、わかる?」


「お、おう……」


「聡寧たちが言ってた。その人のことが、頭から離れなくなるって。私、寝ても覚めても上杉のことばかりだよ。お兄ちゃんたちにも上杉のことばかり話すなって、怒られた」


「また極端に嫌われることをするなあ、お前は」


「上杉はいつも、私の目を見て話してくれる。それが私、一番うれしい」


そういうと彼女は俺の手を、そっと自分の頬の方へ持っていく。

冬の寒さで冷たいはずの彼女の頬は、熱のせいなのか少しあったかく思えてー


「こんなことするのも上杉が好きだから、だよ」


優しそうな笑み、伝わる熱。

こんなに彼女のことを魅力的に思えてしまうのは、なぜだろう。

素直な野神の言葉は、いつもまっすぐで嘘偽りがない。

だから直で言われると、正直こちらがどう反応していいかわからなくて……


「上杉、顔赤い?」


「き、きのせいだって。両親帰ってくる前に、早く食べようぜ」


この熱が恥ずかしいからなのか、それとも好きからくるものなのか……そんなことを思いながら、クリスマスイブは静かに過ぎていったのだったー


(つづく!!)

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