Action.7 波乱
「皆さん、もう来年から三年生です。単位を落としている場合じゃないですからね~補修の人は、ここまでしっかりとってくださ~い」
ホームルーム担当の先生が、生徒全員に言う。
わいわいと周りの生徒がざわめきだす横で、俺はひそかにため息をついた。
年を越し、いよいよ大学二年の講義がすべて終わろうとしている。
最後のテストとだけあって、難しい科目の方が多かった。
幸い、補修を受けるまでには至らなかったが……
「お疲れ、稀羅。補修は大丈夫そうか?」
友人の昴が、優しく微笑む。
相変わらず全教科余裕でクリアしたこいつは、何ら心配もない。
かたや北斗は、相も変わらず補修者の名前に全部書かれていたが……
「ああ、一応大丈夫だったぜ。どこかの誰かさんとは違ってな」
「一応とはなんだ、このリア充め。彼女ができてさぞ幸せなお前に、俺の気持ちなどわかるまい」
「幸せ、ねえ……」
友人の一人である北斗に言われ、ふと彼女のことを思い出す。
あの日―クリスマス前に会って以来、輝夜聡寧とは会っていない。
学科も学年も違ううえに、過ごしている環境が違うのだ。無理もない。
輝夜自身、どうにかして会おうとしていたらしく、ひっきりなしに連絡していた時期もあった。
が、次第にそれも少なくなってしまった。
それと同時に、輝夜が表紙を飾った雑誌をよく見るようにもなった。
おそらく仕事が立て込んでいるのだろう、あんなにも実力があるのだから当然だ。
……わかっている、輝夜がそういう人物だってことは付き合う前から知っていた。
なのにー……
「そういえば輝夜さん、最近見ないな……喧嘩でもしたか?」
「いや、そういうわけではねぇけど……」
「ふん、そのまま別れてしまえ。そしてゆくゆくは俺の彼女に……そういえば、知人から聞いた話だが……その輝夜先輩が、告白を受けたと聞いたぞ
そんな自分の考えは、いとも簡単に崩れ去る。
とっさに俺は、北斗に詰め寄ってしまった。
「それ! 本当か北斗! どこのどいつだ!?」
「確か、今注目の俳優だったか……先輩が所属する事務所の先輩にあたるらしい」
北斗から画像を見せられ、自分の中でさーっと冷や汗が出る。
俳優、とだけあって昴に負けじと劣らないかっこよさだった。
なぜかは、わからない。その画像を見た途端、俺はその場から立ち上がっていて……
「おい、稀羅!? どうしたんだ!?」
「悪い、ちょっと行ってくる!」
気が付けば、走り出していた。
その場所に輝夜がいる保証もないというのに。
実際、俺自身が輝夜に会いに行ったことは一度もない。
どうせ会いに行ったところで、会えないとわかっているからだ。
事実、忙しいとわかっているのに会いに行くのは迷惑だろうし……
今会えないのは仕方ない、落ち着いたらちゃんと会えると自分に言い聞かせて。
「あの!! 輝夜先輩って、いますか?!」
家庭科学科の教室についた時には、肩で息をしていた。
それだけ夢中で走っていたんだと、自分でもびっくりする。
何事かと話す人々の中には、やはり彼女の姿はなく……
「上杉、君……?」
声が、する。
振り返ると、そこには彼女がいた。
今、学校に来たのだろうか。
驚いたような表情を浮かべたかと思えば、すぐにいつもの表情に戻っていた。
「びっくりした。大声で呼ばないでくれる? 恥ずかしいわ」
「わ、悪いつい必死で……お前、最近告白されたか? 有名な俳優に」
「生目さんのこと? 確かにされたけど、なんであなたがそのことを知っているの?」
やはり、北斗の情報網はだてじゃなかった。
すでに遅かった。
あんなイケメンで、将来有望とされている俳優に告白されるなんて、他者からみたら勝ち確同然だ。
だとしたら、俺はもう用済みになるんじゃないか?
一か月も会いに来ない、彼女不孝な男なんか自分でも捨ててしまう。
こんなことなら、会いに来ればよかった。
不必要なプライドなんて捨てて……
「そ、っか。お似合いだと思うぜ。よかったじゃん、応援するわ」
「……あなた、さっきから何を言ってるの?」
「受けたんだろ? 告白。彼氏なのに一か月も会いに来なかったんだ、当然の報い……」
「そんなの、断るに決まっているじゃない。だって私にはいるもの。彼氏も、好きな人も」
そういわれて、は? と思わず声が出る。
そんな俺に、彼女はあきれ返ったようなため息をついていて……
「いやいやいや! 相手めちゃくちゃイケメンだぞ!? 好きな人がいるからって断ったのか!? もったいないにもほどがあるだろ!」
「……私、一年前の貴方に同じことをされたような気がするけど」
「いや、そうかもしれねぇけど! それとこれとは話が別で!!」
「分からない人ね。それほどあなたが好きってことよ。いちいち言わせないで」
輝夜が、そっぽを向く。
こんなことが、許されていいのだろうか。
読者モデルとして名が売れるほどきれいで、高根の花といわれる女性・輝夜聡寧。
そんな彼女が将来有望とされている俳優の告白をけってまで、俺がいいと言ってくれる。
今までずっと釣り合わないと思っていた。
どこか距離を置くように、会いたくても何かしら言い訳をして。
ああ、俺はやっぱり……
「なんだよ、それ……俺、てっきりオッケーしたんだとばかり……」
「……もしかして、私が取られるって思って走ってきたの?」
「そ、そんなこと! ないことはぁないが……」
「そう……必死になってくれたの……よっぽど私が好きなのね、あなた」
意地悪そうに、輝夜が笑う。
どちらかといえば見た目だけが良くて、性格はめんどくさい彼女。
そんな彼女を、手放したくないなんて思ってしまった。
ったく、これじゃあどっちがめんどくさいかわかんねぇな……
「会いに来てくれて、うれしかった。今日は、仕事がないの。特別に、私が作ったお弁当を食べさせてあげてもいいわよ」
「なんだよ、特別にって。まあでも……いただこうかな」
冬が深まる、寒い季節。
心なしか、俺の心は陽だまりに照らされたように暖かかったー
(つづく!!)
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