Action.6 クリスマス


白い雪が、外ではらはら舞っている。

はあっと吐く息が、空に溶けて消えてゆく。


「あーーー、さっみぃ〜〜!!」


「大袈裟ね、これくらいで」


「今季一番の冷え込みなんだぞ〜? お前こそ、そんな格好で寒くないのか?」


「別に、これくらい大したことないわ」


隣にいる彼女が、自分の手に息を吹きかける。

本格的に冬となってきた今日、俺は輝夜と外出していた。

というのも、お互いに休みが合ったからである。

モデルで忙しく、なかなか連絡することすらなかった輝夜からの急な誘いは驚きつつも嬉しかった。


外出ということもあってか、おしゃれなセーターワンピースを着ている彼女は、誰もが振り向くほどの美人だ。

正直、隣にいていいものかといまだに尻込みしてしまうが……


「これからどうする? 寒いし、どっかお茶でもしにいくか?」


「……その前に上杉君。確認したいことがあるのだけど」


「確認って?」


「今週の日曜が何の日か、知ってる?」


「日曜? えーっと、今日が21だから……あ」


換算しながら、思わず汗が出る。

今週の日曜は、12月24日。つまり巷でいうところの、クリスマスイブである。

や、やべぇ……気づかずにシフト入れちまった……


「あ、ああーそういやクリスマスイブか~……悪い、俺その日バイト……」


「そんなことだろうと思ったわ。あいにく私も仕事なの。命拾いしたわね」


「あ、あー! もしかして、当日に行けないから、今日誘った的な!?」


「あなたのことだからなにも気づいてないとは思っていたけど、予想通りね。おおかた、プレゼントも用意してないんじゃないかしら」


うぐっ……その通り過ぎて反論すら出てこねぇ……

そうだよなぁ、クリスマスっていえばカレカノにはかかせないイベントだもんなぁ。

こいつはやべぇ、結構怒ってるな……

何か……何か機嫌をとらねぇと……


「そ、そうだ! それならプレゼント、選び合いっこするってのはどうだ!?」


「選びあいっこ?」


「この辺、店たくさんあるし色々売ってるだろ? お互いに似合いそうなのを選んで、それを送り合うんだよ。うちの両親がよくやってんだが……やっぱばからしいか!」


「上杉君にしてはいい提案じゃない。じゃあ、2時にここへ集合ね」


突拍子に出た提案だというのに、彼女はいとも簡単に了承してしまう。

正直、まじかと声が出てしまった。


うちの親は自他ともに認めるバカップルである。だからクリスマスといったイベントごとは、上機嫌で参加する。

毎年のように仕事を休んでデートに行くのを目にしていたせいか、二人がやっていたことがカップルとしての基準になってしまっている気がする。

だからつい頭に浮かんだことを口に出してしまったが……


言ってしまって後悔した。

なんせ相手は、モデルをやるほどおしゃれな輝夜だ。

そんな奴に何を送れというのだろう、ハンカチか? 香水か?

そもそも俺、女性に物なんて送ったことねぇじゃん!!

思い出せ、自分。こういう時……母さんは何をもらって嬉しかったかを!




「悪い、待たせたな」


その後ぐるぐる店を回ること数分。

なんとか俺は、物を探すことができた。

とはいえなにがいいかさっぱり見当もつかず、探すのにすごく苦労したが。


外に出ると、先に終わらせていた彼女が顔を上げる。

俺をただ待っているだけの状態だというのに、それさえも絵になってしまう。

そんな彼女の存在は、行き交う人々みんな一目見てしまいがちで……


「随分遅かったのね、じゃあみせてもらえる?」


「さ、先にお前からの方が良くね? 楽しみは後にとっておいた方がいいだろ?」


「ふうん、まあいいわ。はい、じゃあこれ。メリークリスマス」


そういうと、彼女は細長い箱を俺に手渡す。

中を開けると、そこに入っていたのは立派な万年筆で……


「って万年筆は高いだろ! いくらしたんだよ、これ!」


「言うほど高くなかったから大丈夫よ」


「いくらなんでも受け取れねぇよ。なんで万年筆なんか……


「教養学科って書くことが多いって聞いたから、講義に使えるかなって思ったの。別にいらないなら私が使うわ」


ぶっきらぼうに言い放ちながら、箱を返せとばかりに手を差し出してくる。

その手が少し震えていたのは、寒さのせい……なのだろうか。

いつも余裕に満ち溢れた瞳や顔つきは、どこか不安そうで自信なさげにみえる。


もしかしてこいつも同じだったのだろうか。

女子同士、よく物を送ったり渡しているのを見かけてたから正直、これくらい容易いことなんだろうと思っていたが……

彼女なりに考えて、くれたのだろうか。

一生懸命、俺だけのために。


「……いや、せっかくだしもらっとくよ。万年筆なんて自分じゃ絶対かわねぇしな」


「取ってつけたような言い訳ね」


「んじゃ、俺からはこれで。気に入らなかったら返品可っつーことで」


そう言いながら、俺は彼女へ箱を渡す。

大きさはおそらく、万年筆が入っていたのと同じくらいだ。

徐に開けると、彼女はギョッとしたような顔つきでこちらを見上げて……


「……これ、バレッタ……?」


「綺麗だろ。髪、よくハーフアップにしてるから使えるかなあって」


「……どうして月?」


「お前の苗字の輝夜って、かぐや姫みたいだなーって思って、さ。だから……なんとなく?」


髪を止めるものには色々種類がある。

俺が買ったのは、バレッタと呼ばれる物らしい。

アクセサリー系はいくら貰っても困らない、なんて母が言う物だから間にうけてしまったのもあるんだが。


やはり俺のセンスはイマイチ、だったのだろうか。

彼女は箱を開けたっきり、微動だにしない。

恐る恐る声をかけようとすると、彼女はつけていた髪留めを外し、俺が選んだのを手に取って……


「……どう? 私に、似合ってる?」


後ろを見せながら、俺に聞く。

その様子があまりにも可愛らしくて、なんともいじらしくて……


「お、おう、似合ってるん、じゃね? さすが俺のセンス」


「私より自分のセンスを褒めるのね。まあ、あなたにしてはいいと思うわ」


「お前……素直に嬉しいって言えよ」


「あら。それは、お互い様だと思うけど?」


輝夜が意地悪そうに笑う。

すると、わざとらしく片手を差し出してみせた。

まるでつなげと言わんばかりに。

仕方ないな、なんて思いながらその手を握る。


雪が、上空を舞う。

繋がれた彼女の手の温もりは、寒さも気にならないくらいとても暖かかったー


(つづく!!)

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