Action.5 きっかけ
カシャ、カシャ、と次から次にカメラのシャッター音が切られる。
たくさんのカメラを構えた大人達の中、一人極めて目立つ金髪の女性が、都度ポーズや角度を変え、表情を自在に操ってみせる。
「いいね〜聡寧ちゃん。じゃあラスト、いっちゃおっか〜」
「はい、お願いします」
どこか嘘くさい、偽物の笑顔をみんなにむける。
騒がしかった秋も終わり、本格的に冬を感じ始める12月のある日、俺は青空公園に来ていた。
大学から少し離れているこの公園は、海が一望できる地元民自慢の場所だ。
そんな場所になぜきているのか、それは彼女ー輝夜聡寧にこいと言われたからである。
一緒にいると忘れがちになってしまうが、輝夜は読者モデルとしてバイトをしている。
一番びっくりしたのは、表紙になってしまうほど名が知れた有名人ということだ。
現に最初は人がいなかったはずの公園には、聞きつけたギャラリーが集まってきてしまっている。
「あの、もう少しあちら側で撮りませんか? その方が光が入って、このバックが映える気がするんです」
さらには、服や小道具の見せ方を熟知しており、カメラ側に的確に指示さえ送ってしまう。
バイトというには程遠いほど完璧な立ち振る舞いで、こう言うところを目の当たりにすると、やはり凄いやつなんだと実感する。
今まで仕事だ、と言うだけでどんなことをしているのか、全く教えてもくれなかったのに。
人ってものは、こうも変わるものなのか……?
「はあ、やっと終わった。ごめんなさいね、待たせちゃって。頼んでたもの、買ってきてくれた?」
そんなことを考えていた最中、急に聞き慣れた声が側でする。
ぱっと隣を見ると、いつからいたのか輝夜がいた。
先ほどの笑顔とは打って変わって、いつも見慣れた不満そうな顔つきに戻っている。
清楚で綺麗、優しそうというイメージを持つ若者達よ。
みよ。これが、輝夜聡寧である。
「ほい、紅茶とタオルだろ? 人使い荒いよな、彼氏をパシリに使うなんて」
「いいでしょ? どうせ暇だろうと思って」
「俺はそうでもさ、わざわざ仕事の日じゃなくてもよかっただろ? 時間なんていくらでもあるんだし」
「少しでいいからあなたに会いたかったの」
その言葉に、思わず彼女の方に首を向ける。
そんな俺に構わず、彼女は撮られた写真を確認しだす。
照れているのだろうか。
俺がじっと見つめていても、顔を合わせる気配すらはなかったし。
会いたかった、か……
「お前さ、文化祭の時言ってたよな? あの告白は嘘じゃなかったって。つーことは、俺のことを前から好きだった……ってことになるよな?」
「……そうだけど、いちいち蒸し返すことかしら」
「いや、ふと思ったっつーか、なんで俺のこと好きなんだろーなーって。あの時初めて会話したわけだし」
そういいながら、あの時のことを何気なく思い出す。
大学一年生の終わり、彼女から告白された時のことを。
あの時彼女は、前から俺のことを好きだった、ととれるような発言をしていた。
前と言われても、俺にとっては初対面同然だったため、これといって思い当たる節がない。
しかもこいつは、読者モデルを任されるほど誰もが認める美少女だ。
きっと俺なんかいなくても、イケメンに告白されることなんてこの先の人生で直面する。
だからこそ、考えてしまうのだ。
俺なんかが彼女の隣に立っていて、本当にいいのだろうかとー……
「……やっぱり、覚えてないのね」
「あ?」
「10年前、だったかしら。両親の葬儀の時に、親戚から聞いたの。私が生まれる一年前まで二人がお店をやっていて、惜しまれながらも閉店したって」
いきなり重い話がきて、正直後悔してしまう。
その人の過去ほど、触れてはいけない領域だ。だから無理に聞こうとも思わなかったし、いつか話してくれるまで待とうと思っていた。
まさか、こんな形で聞かされることになるとは……
「その話を聞いた時、後悔した。私が生まれたせいで、両親の夢をつぶしてしまった、って。だから私は、店をもう一度復活させたくて料理の道を選んだわ。……まあ、私を知ってる人からは無理だって言われてるけど」
「そんなこら周りに何を言われたって、気にすることないだろ。輝夜自身が決めたことなんだしさ。どうせなら、バカにした奴ら見返すくらい、うまくなってやろうぜ?」
……あれ? 俺、この言葉、前にも誰かに言ったような……
思わず出た言葉を言い切った時、なぜか既視感を覚えた。
確か隣町まで親が買い物に行き、待ち時間が長すぎて、外で待っていた時だっただろうか。
分厚い本を持った女の子が、周りの男子にお前には無理ってからかわれてて。
確かその子も、綺麗な金色の髪でー……
「変わらないのね、あの時とまったく同じことを言うなんて。やっぱり、私の目に狂いはなかったわ」
彼女の微笑みをみて、ようやく思い出す。
そうだ、あの時も俺は同じ言葉を投げかけた。
泣かないように必死に口を一文字に結び、誰に何を言われても動じなかった女の子に。
俺にとっては、ただ暇つぶしで遊んでいただけ。
そんなたわいのないこと、言われるまで覚えてさえいなかった。
まさか、あの時の子が輝夜だったとは……
やはりこいつは、どこまでも強い。
親が亡くなったのに、不得手な料理をかかえながら一人でここまできて。
たった一度しか会ってない、名前も知らない人を探して、告白するなんて……
「やっと見つけた以上、もう逃がさないから。私から目を離せないくらい、あなたを好きにさせてあげる」
そういうと、彼女はくすりと微笑む。
言葉にはしなくても、俺に感謝の意を示していることがわかって、目を合わせるのすら恥ずかしくなる。
そんな俺を気にせず、スタスタと仕事に戻る。
彼女の先をゆく背中は、段違いにかっこよく見えてしまい、しばらく俺はずっと目を離せなかった……
(つづく!!)
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