Action.3 彼氏と彼女
冷たい風が、体を冷やすように吹きつける。
茶色かった葉も今は全部落ちてしまっていて、冬の訪れを微かに感じる。
行き慣れた通学路をバイクで駆け抜けながら、ぱっと見かけた横顔に、スピードを徐行しながら近づける。
「よーっすー。ちょっと遅くなった」
「………遅いわよ、上杉君」
「混んでたんだからしょーがねーだろ。はよ」
ヘルメットごしながらも、彼女へ挨拶をする。
そんな俺に目を逸らしつつ、輝夜は小さくおはようと返してくれた。
彼女と出会って半年経つか、経たないか。
あの文化祭を機に、なんと俺は彼女と付き合うことになった。
とは言っても、距離感的にはさほど前と変わっていないのだが。
「ていうか、寮通ってるならいえよ。こっからなら、歩いた方が早くね?」
「一緒に登校したいって言ったのはあなたでしょ? いいじゃない、車のほうが楽だわ」
「俺そんなこと言ったっけか? 俺の記憶ではお前から提案していた気が……」
「……しつこいわね。何していいかわからないって言ったくせに」
好きだった人が男で、憧れの好きだった俺にとっては、当然異性と付き合ったことがない。
正直右も左もわからない俺に、彼女は一緒に大学に行くことから始めようと提案してくれた。
バイク通学だったため、迎えに行くよと実際に住所を聞いてみたら、まさかの学生寮だった。
もちろんうちの大学が管理しているため、大学にも近く、衣食住すべて普及されることから一人暮らしの家を探すよりも快適だと聞いたことはあるが……
正直、最初に輝夜がここにいるということ自体初めて知った。
毎度毎度こいつは、自分のことを話さなさすぎる……
「まあいいや。とりあえず乗れよ、後ろ」
「……私、バイク乗るの初めてなんだけど……」
「へぇ、貴重な経験だな。近場とはいえ、ちゃんと捕まっとけよ〜?」
「できるだけ、安全運転でお願いね」
そういうと、俺の腰に手を回す。
柔らかい感触と同時に、ふんわりと甘い香りがした。
そっと後ろを振り向くと、見られたくないのか顔を俺の体に埋めている。
透き通った金髪が、風で揺れるたびに綺麗に輝く。
心なしか、掴んだその手に少しだけ力がこもったような気がして……
「じ、じゃあいくぞ」
エンジンを回し、ゆっくりとバイクを動かす。
風を切るたびに金色の髪が、俺の視界をチラついてくる。
まるで、私はここにいる、と主張してくるように……
微かに匂うのは、彼女がつけている香水……だろうか。
気を紛らわそうとしても、ありとあらゆるもので存在を示されているようで……
「……はぁ、やっとついた」
そのせいなのか、着いた頃にはめちゃくちゃ疲れていた。
たった数分、いつもと変わらない通学路だったというのに、異様に長く感じた。
会話すらほとんどなかったというのに、不思議なものだ。
人は付き合うと意識した途端、こんなにも変わるものなのか?
心なしか、彼女のヘルメットを取る仕草すら、目を奪われてしまうくらい綺麗に見えて……
「そういえば今日はバイト、入ってるの?」
瑠璃色の瞳が、じっとこちらを見つめる。
その言葉が俺に向けられていると気づくのに時間がかかってしまったのは、その瞳に釘付けになってしまったからだ。
そんなこと、彼女に言えるはずもない俺は何事もないそぶりをしてみせた。
「いや? 休みだぞ。講義も昼前で終わり」
「そう。じゃあ、私と一緒ね」
「お、だったら一緒に昼飯いかね? 昴達とうまいとこ行く約束しててさ」
「悪いけど、その約束は断ってほしい。行くなら、あなたと二人で行きたいわ」
その言葉が、瞳が、俺の胸をまた刺激する。
こんな顔をするような奴だっただろうか。
ちょっと前までは強引で、生意気な奴だと思っていたのにー
ほんのり赤く染まった頬、まっすぐに見つめてくる瞳に俺はどうしようもなくまたドキドキしてしまうー……
「あ、あーあいつらがいいっていえばな? 昴はまだしも、北斗とかすげーうるさいんだよ〜断るたびに彼女か彼女かって尋問がすごくて……」
「……そう、言えばいいじゃない。彼女ができた、って……」
右肘を左手で掴みながら、はずかしそうにうつむく。
様子を伺うように上目遣いをする彼女の顔に、あまりにもずるいと感じてしまう。
それほど、彼女は可愛かった。
今までこんな顔、したことすらなかったのに。
「お前……なんか、前とキャラ変わってね……?」
「…………うるさい」
「……じゃあ……一緒に食べるか? 昼……」
しどろもどろながらも、彼女に問いかける。
それまで目線を逸らしていた輝夜だったが、俺の言葉にちょっとこっちをむき、浅く頷いた。
(つづく!)
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