11-2
怪我の功名と言って良いのか、自分の中に一瞬浮かんだ絶望感、断絶、孤独感が、植え付けられた
持ち主を守らなくてはいけない、その本能とも呼べるような感覚が弱まった瞬間。
{今しかない!}
「【
十本の指を前方に突き出すと、その内両親指と左薬指を除いた七本の爪が糸を結んだ状態で飛び出した。
基本的に急所を狙って即死させる技だが、今回は彼の動きを止めるのが目的だ。飛ばした爪が左右の膝と足首に突き刺さると、
「がっ!」
小さな咆哮と共にその場にひざまづいた。抱えられていたビニャも床に投げ出されて、その場で倒れる。
{そうだ。結局、私は破壊するだけ。それしか出来ない、そういう存在だった…でも今はこの
迷いも自虐も全てが終わってからで良い。今は目の前の問題に対処するしかない。気持ちを切り替え、二人にゆっくり近づくと、
「【
「!!」
リーデルが自身の能力名を叫ぶと、一瞬にして彼自身の全身が『人形』に変わった。傷ついた部分から出ていた血は止まり、爪を抜くとその部分がゆっくり元の形に戻っていく。まるで「最初からゴムに刺さっただけだ、何も問題無い」と言わんばかりに。ちょっと劣化版の不死の能力と言って良いだろう代物だ。
{…もしかして痛みで洗脳が解けた?}
ちょっと安心する間も無く、
「ターヴィ! 俺を細切れにしろ!」
「えっ!?」
リーデルは顔だけこちらを向いて叫んだ。そこには今まで見たことも無いような怒りに似た、でもそれとは違う苦しさを伴う表情が滲み出ていた。
「リー? 何を言って…」
「良いから! 今なら大丈夫だ! 早くやれ! これは【絶対命令】だ!!」
「っ!! 分かったわ!」
初めて下される、持ち主からの【絶対命令】。全ての【デ・マンドール】は、それに逆らう事は許されない。
糸を伸ばし、リーデルの体に巻き付けて超高速の振動を起こしながら引っ張る。そうすれば如何に柔らかいゴムであっても摩擦熱で切断できる。それを十本の糸で繰り返し、繰り返し、更に細かく、もっと細かく、
「もっとだ! もっと細かく!」
「はいっ!」
遂にはトウモロコシの粒大になった肉片、もとい人形片が何度も宙を舞い、頭部だけが辛うじて元の形を保つようになった頃、私自身もやっとそれに気づいた。
「!? …これは? 糸?」
リーデルの体内から十数本の糸が這い出てきた。私の糸じゃない、もっと細くて短いし色も銀じゃなく乳白色だ。恐らくこれがリーデルを操っていたのだろう。
「ビニャ。今すぐ能力を解きなさい。命だけは…考えてあげる」
「……」
振り返って倒れ伏せているビニャを掴み上げる。こうなった以上、元より生かして帰すつもりなんて無いけど。
だというのに、ビニャはこちらの呼びかけに全く反応を示さない。生きてはいるようだけど、さっきと違って目が虚ろだ。
「ビニャ……?」
一体何が起こっているのか? 更に拷問が必要か? と考えていた矢先、その答えは意外にも背後からもたらされた。
「待てターヴィ! 敵はそいつじゃない!」
「リーデル? じゃあ一体誰なの? まさかあの牧師が?」
「違う、そうじゃない。というか、そもそもこれは能力じゃない!」
「はあ? 能力じゃない? じゃあ一体何なの? 敵は誰? 命令して。すぐそいつを始末するから!」
頭部だけになったリーデルは忌々しげに地面の糸を睨みつけながら吐き捨てるように言った。
「これは…人間を宿主とする『寄生虫』だ。そういう生物なんだよ」
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