11-1


「んんー!!」


 ビニャの塞がれた口から激痛に悶える呻き声が僅かに漏れる。ターヴィの右手から伸びた爪がビニャの足の爪を一本ずつ剥いでいるからだ。


「今すぐリーデルの洗脳を解きなさい。もちろん、あんたが死ねば解けるなら話は簡単だけど」


 ガチガチに拘束されている首をそれでも僅かに横に振るビニャ。それが否定の意味なのか、単に悶えているだけなのか判断できない。かと言って口を開かせれば、叫び声で下の住人が起きて、こちらに来る可能性がある。

 リーデルはリーデルで、こちらを見てはいるが自我がある様子は無い。


{どうしたものかしら…}


 十枚の剥がした爪をビニャの失禁が滲み出した股の上に捨てながら、私は次の最善手を考える。


{人気の無い場所に連れて行けば、もっと出来るし、最悪ここの住人全員がグルという可能性もある。ただ二人は流石に重い。かと言ってリーデルを置いていくのもなぁ……}


 そうこうしていると、突然リーデルがこちらに走ってきたのを視界の端に捉えた。


「リーデル? なっ!?」


 何と言う間も無く、リーデルは私の脇腹を全力で蹴り飛ばす! 痛みは元々感じないし、洗脳されていると分かっているのに、心の何かに衝撃が走った。もしかしたら今まで彼も今までこんな気持ちを味わっていたのだろうか?


{これからはもうちょっと優しくしようかな? ほんのちょっとだけどね!}

「リーデル! 止めなさい!!」


 当然それで止まる気配は無い。私が反攻できずにいると、彼は更に私の右膝を全力で踏みつける。


「ぐっ!」


 さすがに構造が分かっている。鈍い音と共に右膝から下を外されてしまった。これではもう歩けない!

 更に追撃が来るかと思い、ビニャを縛っていた左手の糸を戻す、が、それを見たリーデルは、それを待っていたと言わんばかりにビニャの方に行動指針を移した。

 ビニャを素早く抱き上げて、私に背を向けて走って行く。屋上からまた飛び降り心中をしようとしているんだと気づいた。


「リー!? 待ちなさい! 待って! 行かないで!!」


 この時の出来事を後々振り返ると、この時思わず出た手と言葉は彼の身を案じるものではなかったと、今にして思う。



私は寂しかったんだ


置いていかれると思ってしまった


リーデルは私ではなく、あの子を選んだんだと


私は――捨てられたのだ、と

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