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教会は街の象徴として、且つ外から来る人への道標として高く建てられる。そこの傍で暮らす人々は鐘の音を基準にして一日の行動が決まる。
この施設の鐘は既に取り外されていたが、屋根の高さまで変わるわけではない。
バロークスは詳細を話さなかったが、メオが飛び降りて自殺したのは遺体の状態を見て分かっていた。そして、それを実行したのならこの場所だろうとも。
リーデルは、つい最近付けられたであろう簡素な鍵を壊し屋上へ出る。見れば錆ついて朽ちかけてはいるが、運河の方を向いて立つ小さな女神像が端に置かれていた。かつては街で暮らす人々を見守り、彼らに加護を授けていたのか、それとも密輸をしようとする輩を監視していたのかもしれない。
リーデルは女神像の隣で視線の先にある運河を見下ろし、北斗七星と満月を見上げてから、傍らに立つ者と目線を交わらせる。
二人の間に特に会話は無かったが、これからする事に対し一切の躊躇が無い事は互いに認識できた。
そうして今まさに宙へ飛び立とうとした時、
「やっぱりあんただったのね。ビニャ」
声に振り返る間も与えず、ターヴィの左手指から五本の糸が飛び出し、ものの数秒もしない内にビニャの四肢と首に巻き付いた。
「言ったでしょ、私は変わらないって。私は【デ・マンドール】、契約に基づき持ち主を守る人形。それを脅かす者は…」
呻き声すら上げられないビニャを指の動きだけで引き寄せて、誰にともなく言い放った。
「誰だろうと排除する」
その様子と眼は、糸で獲物を捕らえて本能の命じるまま獲物を貪り喰らう、蜘蛛を連想させるものだった。
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