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あれから一週間も経っていないのに、ずっと昔から此処に居た気さえする。
「アルザス! リーデル! ご飯できたよー」
「はーい!」
相変わらず仕事は慣れない事の連続で怪我が絶えなかったが、バローロに手厚く手当てしてもらう事を思えば気にならなかった。
「いただきまーす!」
「無事生まれたんですって」
「今日犬に追いかけられてさ」
「ターヴィちゃんにリボン付けたー」
食事の時は皆が集まってから。会話の内容は他愛もないものばかりで、間違っても昔の話なんて誰もしない。
「随分気に入られたね」
「良い迷惑よ。留め具もずれて結び目もぐちゃぐちゃだし」
夜はこっそり抜け出して、運河と星を眺めながらターヴィと語り合う。
「みんな、紹介しよう。今日から家族になるソアーヴェだ」
「僕はリーデル、よろしくね、ソアーヴェ。この子はターヴィだよ」
昨日、突然家族が増えた。黄土色の肌に琥珀色の瞳をした十代前半の女の子だった。
誰も何も聞かず、誰もが彼女を受け入れた。
「リーデル、今日は一人で配達の仕事行ってくれる?」
「ええ、大丈夫です。行ってきます」
バローロに見送られながら街へ繰り出す。
{ああ、幸せだ……}
穏やかな風、活気のある風景、雑多な置物の数々。
{こんな幸せがあったんだなぁ……}
目に見える物、聞こえてくる音、肌に感じる空気。
{もう、ほんとに……}
全てが新鮮で、同時に懐かしい。
{このまま、みんなと一緒に……}
仕事を終え、出迎えてくれる皆に笑顔で手を振る。
{今すぐにでも……}
「お帰りなさい、リーデル。今日はビービーの誕生日だから、お祝いに羊肉よ」
「そうなの? やったー! あ、おめでとう! ビービー」
「おめでとうを先に言って欲しかったけど、まあいいわ。ありがとう、リーデル」
{死にたい}
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