7-2
「…………」
「そんな事言われると思わなかったって顔ね」
「そんな事言われると思わなかった」
いっそ笑い飛ばすか、思いっきり罵倒して欲しかったのかもしれない。
無理に決まっている、自分が今までやってきた事――私にさせた事を考えろ、そんな虫の良い話があるか、と。
「もう好き勝手に暴れられなくなるよ」
「あんた、私を戦闘狂の殺人快楽主義者かなんかだと勘違いしてない?」
{違うの!?}
口には出さなかったが表情で充分伝わってしまったんだろう。ターヴィがこちらを指さすと、そこから糸が伸び、あっという間に全身拘束される。
「わっ! 痛てて! ごめん! ごめんて!」
「ふんっ」
…意外にあっさり離してくれた。特に巻き取るような動作もせずに、糸そのものが意思を持っているかのようにターヴィの指に仕舞われる。
{思った程不機嫌じゃないみたいだな。酷い時はこっちが死なないのを良い事にトウモロコシの粒大まで細かくされるからなぁ}
この段階で【持ち主】に対する態度としてどうかと思うが、今更そんな事考えてもしょうがない。
「勘違いしないで。【デ・マンドール】はあくまでも道具よ。ある程度目的を持って作られたとしても、結局は使い方の問題。でもね、これだけは忘れないで」
「……何?」
「貴方がこの先どう変わろうと、私は何も変わらない。私は、いつまでも貴方の傍に居る」
「……死が二人を分つまで、ってか」
だから【契約】なのだと。かつてあの人がそう言っていた。
「でもまあ、道具と言う割には扱いが難しすぎる気もするけどね……あ〜あ、や〜だや〜だ。これじゃどっちが主だか」
「あんたがしっかりしないからでしょ。後は人生経験の差ね」
「さすがはちじゅうきゅ…あいたー!」
「調子に乗るな」
それでも、その強さに何度も支えられてきた。その優しさに救われてきた。
最初から迷う必要も、伺いを立てる必要も無かったのだ。
「いてて……じゃあ、良いんだね?」
「ええ…」
此処で何もかも忘れて、過去を捨てて、子供として皆と暮らす。
そんな事は無理な事は分かり切っている。
どれだけ自分の過去を正当化しようと事実は変わらない。
それが原罪であれ、法律上の罪であれ、自ら選んだ道だ。
望まなかったとしても捨てた生き方だ。
でも今だけは、『もしかしたら在ったかもしれない未来』を夢見てみるのも、ターヴィが傍に居るなら良いかもしれない。
「……じゃあさ、久々に『あれ』見たいな」
「ええ!? ここで?」
「この先いつ見れるか分からないし、誰も居ないし、さ」
「もう……分かったわ」
そして、なんだかんだ言って甘えた笑顔で頼めば、いつも渋々な体でお願いを聞いてくれる彼女がパートナーで良かったと心から思う。
「……」
「……」
ターヴィは一度顔を伏せ、数度呼吸を整え、それまでとは打って変わった厳かな雰囲気を、ゆっくりとその身に纏い出す。
「……」
「……」
暫くの後に顔を上げ、こちらを見つめながら粛然と言を紡ぐ。
「……今宵、舞いますは、天翔ける星々の、出会いと別れの物語……」
ワインレッドの瞳が慈愛に濡れ、束ねた銀髪が風に逆らうように湧き上がる。
交差した足、真上に伸ばされた両腕、指先から伸びる十本の糸が絡み合い、うねり、今にも月まで飛び立たんと踊り出す。
川向こうの火の灯りをその身に宿し、情熱が炎花を形作る。
この世界で二人きりの、泡沫の宴が始まった。
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