7-1


 川に沿って灯される篝火は闇夜に光る虫の群れのようで、この街で唯一流される事の無い不動の営みの象徴のようだった。


「周りに人は?」

「無いわ、大丈夫。川沿いで騒いでる酒飲み連中からも見えてない」

「そうか……」


 リーデルは手頃な切り株の上に布切れを乗せ、肩に乗っていた私をそこに立たせた。

 私がリーデルを睨んだまま何も言わないでいると、観念したように向こうから口を開く。


「……何か言いたい事があるんじゃない?」

「別に無いわ。服どころか全身よだれと泥まみれだし、挙げ句の果てに泥団子食べさせられそうになったけど、ちっっっっとも気にしてないから」

「……分かった、分かったよ。今度新しい服買ってあげるから」


 罰の悪そうなリーデルなんて見たのは初めてだ。こんなんじゃ全然足りないけど少しは意趣返しになった。


「随分仲良くやってるじゃない。私の事を忘れるくらい」


 正直、あそこでリーデルが自分の過去を言い出した事には本気で驚いた。動けるなら声が出ていたかもしれない。それほどまでに今までのリーデルからは意外な行動だった。


「うん、まあそれはごめん」

「別に謝って欲しいわけじゃないわ。それより、わざわざ夜中に抜け出して人気の無い場所に連れ出したのは、何か言いたい事が有るんじゃないの?」

「あーー、それなんだけどさ……」

「何? はっきり言いなさいよ」


 まあ、だからと言って私自身は何も変わりはしない。

 だから、これからターヴィが何を言おうと私――タヴェルネッロ オルガニコ サンジョヴェーゼの、【デ・マンドール】としての応えは変わらない。だからこそ一切迷わず即答ができた。


「このまま、此処で暮らしたいって言ったら笑うか?」

「笑わない」

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