5-4
「大丈夫?」
「はい、すいません」
バローロによって頭に巻かれた包帯にズレが無い事を確認して、頭を下げた。
「ドジだなー。薪割りの薪が頭に飛ぶなんて」
「こら、アザルス。そういう事言っちゃダメでしょ」
ケタケタと未だに笑うアザルスをバローロが嗜めるが、二人ともじゃれ合いの領域なのは側から見て丸分かりだ。
{何やってんだ、俺は……}
らしくない、ここ最近ずっとだ。調子が狂いっぱなしで、それでいて元に戻りたいと思えない。このままで良いと耳元で囁くのは天使か、それとも悪魔なのか?
「あ、お兄ちゃん帰ってきた!」
声のした方を見れば、さっきの姉妹的な二人も調理場に入ってきた。小さい方がビニャ、上がビービーだったか。ビニャの腕にはターヴィが抱かれているが、こちらをちらりと見る素振りも無い。
{俺が外に居る間に互いに離れ過ぎたせいで能力が使えなくなっていたか……}
こうなってしまっては一度ターヴィに触れないとずっと人形のままだし、俺自身も能力が使えない。だが、
「ほら、お人形さんお兄ちゃんに返して」
「ええ〜〜。まだ一緒に居たいよ〜」
「わがまま言わないで。お兄ちゃん困ってるでしょ」
「うぅ〜〜」
渋るビニャからターヴィを取り上げようとするビービー。涙ぐんで抵抗を見せるビニャ。その様子に、とうの昔に捨てた筈の感情が底の底の奥からジワリジワリと染み出してくる。
それは半ば諦めに近いのかもしれない。
「……夜まで持ってて良いよ」
{今ターヴィを起こして暴れられたら困るし、ここに居る限り危険は無いだろ}
「ほんと! やったー!」
満面の笑顔でターヴィを抱きしめるビニャ。
「…………」
{潮時……だな}
何処かに置いてきたそれ。
自分の意思で手放したもの。
それが今、目の前に広がっている。
だがそれは決して掴めない。
望む事すらおこがましい。
生きる事そのものが罪だとしても、罪は罪なのだから。
――【デ・マンドールの契約】を結ぶ為の、持ち主側の条件。
1:ソムリエ出身である事
2:『大切な何か』を失っている事
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