5-3
{なんでこんな事に……}
予想外の展開の連続に思考力と判断力が奪われているのは自覚できてはいるのだが、そこから逃げるという選択肢が浮かんでこない。その事実が何よりも予想外ではあるのだが。
「まずは畑を耕す所からな」
「……仕事終わったって言ってなかったっけ?」
「あれは外の仕事だよ。荷物運びとか、雑草取りとか」
言いながらアザルスは既に鍬を持って歩き出していた。
孤児に限った話ではない。富裕層や貴族でもない限り、子供は立派な労働力だ。そして死ぬまで働き続ける、世界の広さも不条理さも知らぬまま、誰かを肥やす為の家畜として……。
「何してんだよ? 早く来いよ」
「あ、ああ、うん」
言われて我に帰り、道具小屋から同じ鍬を持ってみるが、
{う、重い…}
体格もあるが普段から肉体を酷使する事が無いし、ターヴィに頼り切りな弊害がここで来ている。
それでも何とか言われるままに、見様見真似で畑仕事、家畜の世話、水汲みと奮闘した。
だがそうやって一時間もすると、すっかり身体が(能力を使ってないのに)人形の様になっていた。木箱に倒れ込む様に座るともう立ち上がれる気がしない。
「情けないなぁ。今までどうやって生きてきたんだよ?」
「あはは……」{悪人を狙って惨殺した後、身包み剥いで生きてきたって言ってやろうか}
「まあ良いや。飯にしよーぜ」
アザルスが事前に渡されていた袋を開けると、中から大量のパンが顔を出す。安物の黒パンだが、疲れた体にはどんな物も美味しく感じられる。
「……」
「……何も聞かないんだね」
「聞いて欲しいのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……受け入れるのが早すぎるな、と」
「バロークス神父がそういう感じだからな。過去なんて関係無い、弱き者に手を差し伸べる世の中であるべきだ、救われるべきだって、何時も言ってるよ」
「…尊敬、してるんだ、神父の事」
「当然だろ! バロークス様こそ俺にとっての理想像、いや神様さ! あの人が居なけりゃ俺はとっくに死んでるよ」
自分の事の様に誇らしげに語るアザルスを横目で見て、
「平和だな」
「…何? なんか言った?」
「あ、いや、何でもない」
思わず心の声が漏れてしまった。普段なら有り得ない事だ。それを誤魔化すかの様に慌てて肉詰めパンを頬張れば、アザルスはそれ以上追求はしてこなかった。
{……世の中ってのは弱い奴が肉で強い奴が食う立場になるんだよ。なんだよ、そんな吹けば飛ぶような理想論は。大体お前が今食ってるのは何だ? 弱者の命じゃねーか}
無言で立ち上がり、作業を再開する。無駄に体に力が入っている自覚があったが、止める気にもならなかった。
{ま、どうでもいい事だ。弱者は弱者同士で寄り集まって慰め合っていれば良いさ。今の俺には
小振りの手斧を勢いよく、立てた薪へ振り下ろす!
{あの日、『食う側に回ってやる』と決めたんだからな!!}
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