4-2
思わず口元を手で隠していた。そんな俺の様子にメオは上目遣いで関心を持ちながらも、肉を食べる手と口は止まらない。ターヴィは俺の肩に乗ったまま、人形のフリを貫いている。
「メオ、ちょっとここで待っててくれないかな。僕用事を済ませてくるから、良いね」
すぐに離れるべきだと思った。生命の危機とは別次元の、得体の知れない感情がはっきりと形を成す前に。
メオは分かっているのかいないのか、ただこちらを見つめている。純粋無垢な瞳、絶対的な信頼、これが今の自分にとって一番必要無い物だと自分に言い聞かせて、大通りに向かって歩き出す。……メオは追って来ない。
{当てはねーが町を出た方が良いな}
慌ただしく動く人々の群れや、自分より大きな荷物を載せて走る馬車をかわして石橋を渡ろうとする。その真ん中まで差し掛かった時、
「おい! 危ねぇぞ!」
「!?」
馬の嘶く声、誰かの叫び声、背後がにわかに慌ただしくなっていく。
「きゃあ!!」
「子供が轢かれたぞ!」
「親はどこに居るんだ!?」
{おいおいおいおい……!}
振り返ってから振り返るべきじゃなかったと後悔した。そして予想通り通路の真ん中でメオが倒れていた。そこまでは良い。こっちの言ってる事が分からなかったか、無視したか、どちらにせよ追われる心配は無くなったんだから。
問題は、次の俺の行動だった。
「メオ! 大丈夫か!」
邪魔な大人達を掻き分けてメオの元へ走り寄っている自分がいた。
{何なんだ一体……どうしちまったんだ俺は?}
焦りと恐怖、そしてそれ以上の困惑、そんな感情を抱いている自分への。
メオは倒れたまま動かない。少量だが頭から血を流しており、それが地面の石畳の隙間へ流れている所だった。
「あなた、この子の知り合い?」
唐突に聞こえてくる女の声、見れば修道服を身に纏った大人が居た。皆が遠巻きに見守る中、一人だけメオの傍に寄り添っていたようだ。
{誰だ? 一体何をしている?}
その疑問を口にする前に、女の方から答えが返ってきた。
「一先ずカミュゼ神父に診せるから。この子の親が近くに居るなら呼んで来てくれる?」
「……親は居ません。僕はメオの…兄です」
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