流れる町 リオハ

4-1

 リオハは大きく三つの区域に分かれている。

 横長の地域を長い川が高地の東端から低地の西端まで横切っており、川の北と南で別の国が治めている。

 その川縁が双方の貿易中継地として機能していて、そこで店を構える者、南からの特産品を北に売る者、北からの木材や毛皮を売る者が絶えず橋を行き来している。

 南からの湿った空気と下からの上昇気流で雨が多い事でも知られ、高く積み上げられた防水壁と石橋が長年の人の自然に対する足掻きにも見えた。

『水と人と物が絶えず流れる三本川』、それがリオハ、だそうだ。

 まあ、どうでもいいけど。


「さて、どこ行けば良いのかな? メオはこの町に来た事ある?」


 長めの銀髪が左回り右回りと回転する。誰かに聞こうにも皆忙しそうで子供の相手などしてくれそうにない。


「まあ良いや、一旦あそこで休もう」


 屋台の裏に乱雑に置かれている木箱を指差して歩き出す。メオはとてとてとついて来た。


{……犬みたいだな}


 ここまでまともに会話はしていない。こっちの言葉はある程度分かるみたいだが、喋る言語は違うようだ。

 何処に行くのかも言ってないし、こっちは盗賊の事を聞いた村とは逆方向だ。だというのに一切警戒心や疑念を抱いている様子は無い。それどころか常に傍に居ようとするし、なんなら腕を絡めてくる、つまり懐かれている。


{……これは……一体何だ?}


 そんなブヨブヨとした半固体の疑問と困惑が徐々に胸の内で膨れ上がってきている。その殆どは目の前の少女の態度に対して。


{信用できると思ったのか? だとしたら全く人を見る目無いな。こんなんでよく今まで……}


 そして残りは自分に対して。どう言ったら良いのか分からない、初めての感覚。

 

{……考えるのは止めだ。どの道こいつは此処に置いていくしかねーんだ。手持ちに余裕がある訳でもねーし}


 袋から燻製肉を取り出してメオに渡した。メオはそれを両手で掴み、かぶりつく。中々噛み切れない肉を何度も咀嚼しながら幸せそうな笑顔をこちらに向けてくる。


「ふふっ」


 思わず振り返る、が、誰も居ない……? 

 

{空耳か? いや、今確かに誰かの笑い声が聞こえた。それも凄く近い。メオじゃない。ターヴィの声とも違う。なら、今のは……}


 立ち上がり、周囲をぐるりと見回して、メオがこちらを見てきょとんとするのを確認して、そこでやっと気付いた。


{もしかして……俺……か?}




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