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「どういうつもりなのか聞いておきたいのだけれど」
「何の話?」
街に向かう途中の旅人用の木造小屋で、私は子供が寝静まるのを待ってから口を開いた。
「どうするの? その子」
「……仕方ね〜だろ、他に売れそうな物無かったんだし。一応奴隷商が居れば買い取ってくれないか話してみるし、最悪物乞いに使えるだろ」
小屋と言っても誰かが管理しているわけじゃない。行商人達が雨風を凌ぐ為にとりあえず木材を積んだといった体の物で、半開きの扉からいつ野生の獣が迷い込んできてもおかしくない。来た所で返り討ちにするだけだけど。
「また言葉使い戻ってるわよ。リーデル」
「別にこいつは寝てるし、他に誰もいねーんだから良いだろ」
リーデルの傍で寝息を立てる女の子、確かメオと言ったか、その子は移動中もずっとリーデルから離れずについて来ていた。まるで聖騎士が守ってくれると言わんばかりに。
状況からの推測ではあるが、突然村を襲われ、攫われ、母親を目の前で殺された。そしたら見知らぬ少年が現れて、ついて行く事にした。
……何か違和感がある。そしてそれはリーデルも含めてだ。
今まで何十人と【デ・マンドールの契り】を結び、様々な生き方や考え方を本人やその周りから見てきた。
その中でリーデルは異質なのは確かだ。能力の影響で、十二歳前後の見た目に反して実年齢が三十歳を越えている事を踏まえても、倫理観や人情などといったモノが抜け落ちている。
かと言って悪党や義賊とも違う。彼の事を端的に表すなら『無関心』が一番近いだろうか。もう一年の付き合いだが、その辺りに関しては一切ブレを感じた事は無かった。でも今は何か……。
私と会う前はどうだったか知らない。お互いにそういった話はしないから、聞かれたくないのかどうかも分からない。
「右腕は終わったぞ」
「ありがと」
リーデルから手入れを終えた右腕を受け取り、肩に嵌め直す。中に仕込んである糸は問題無く動く。
「……」
ただ、それとは違う奇妙な引っ掛かりを覚える。
「何かおかしいか?」
「え?」
「右腕だよ。ちゃんと血を拭いて巻き直したぞ」
「……いえ、大丈夫」
私の態度を整備不良と勘違いしたらしい。追求されても返答に困るので、立ち上がって扉に向かう。
「どうした? 寝ないのか?」
「ちょっと外を見回ってくる」
「あまり離れ過ぎるなよ。動けなくなってお互い能力が使えなくなるからな」
「それもしかして冗談のつもり?」
返事を待たず外に出ると、踏み固められた轍が真横に伸びている。両脇は少しだが開けていて、丁度満月が南の空に見えた。
{……人は変わるもの。あいつも何かが変わろうとしてるのかしら?}
ただ、持ち主がどうなろうと、どれほどの時間が経とうと人形である自分は変わらない。
『契約者を護る』、それだけが【デ・マンドール】の存在意義なのだから。
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