2-3

「ロクなのが無いわね」

「う〜ん、当てが外れたかな」


 手分けして盗賊の荷物を漁るものの、出てくるのは日用品や小振りの武器ばかり。遊牧民の様な生活様式や人数規模的に見ても、あちこちを転々として小さな村を夜襲するくらいしか出来ない連中だったのだろう。だからこそこれまで生きてこれたのだろうが。


「……ん? なんだあれ」


 片付ける者の居なくなった布張りの仮住居群から辛うじて見える程度に離れた場所に、形は同じで一回り大きい物が見えた。

 リーデルはターヴィを肩に乗せてから、そこに歩いて行って入り口の垂れ幕を捲る。その先の同じ光景を見て、二人は同時に口を開いた。


「戦利品置き場か」

「ゴミ捨て場ね」


 どちらの見立ても間違っていない。死んでからまだそう時間が経っていない女性の死体が複数。暴行を受けた程度に違いはあるが、どの道老衰死ではない事だけは分かる。ただ、今はそれよりも気になる事が奥にあった。齢十もいかないだろう少女がうずくまっていたのだ。


「……君、大丈夫かい?」


 リーデルが近くに寄って行き、優しく声を掛けると、その少女は僅かに反応を示す。生きているのは確かだ、外傷も無い。多少やつれていて、感情が見えないが、まあこの状況では当然と言えば当然だろう。

 この辺りでは珍しい銀髪は地面にまで届き、茶色の肌に申し訳程度のボロ布を纏っている。背は自分よりちょっと低いくらいだろうとリーデルは見た。

 

「……」

「……」

「……」


 ターヴィは少女を見つけてからはリーデルの肩の上で一応人形のフリをして動かない。長い沈黙が続く中、リーデルはもう一度周りを見渡す。この中の誰かが母親だったのか、ついでに攫われて売られる所だったのか、


{……どうでも良い事さ、そうだ…これはどうでも良い事……そうだろ? リーデル グラン クニュ}


 内に湧いたモノを隠し、暫く間を開けてからリーデルは再び少女に向き直る。今度は目線を合わせ、穏やかに語りかける。


「もう大丈夫。悪い人は居なくなったから。辛いだろうけど、でもここにずっと残っていても仕方ない。街まで一緒に行こう」


 そう言って笑顔で手を差し出す様は姫をエスコートする王子の様で、さぞ絵になっただろう。周りに死臭が充満してさえいなければ。


「……うん」

「僕はリーデル。こっちはターヴィ。よろしくね。君の名前は?」

「……メオ」


 リーデルの顔と手に何度か藍色の視線を往復させた後、少女はゆっくりとその手を自分の手に重ねた。

 その間もリーデルはただひたすらに穏やかに語りかけ、柔和な表情を見せつける。


 安心して良いんだ。僕は君の味方だよ、と。


 皮肉にもその態度は、つい先程までの盗賊達を殺す時のと何一つ違いが無かった。

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