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「何なんだ……お前ら一体なんなんだよぉ!」
おびただしい血だまり、最早何人分かも判らないような肉片の数々の中心に立つ少年と人形。目が覚めて視界に入ってきた世界は、盗賊の最後の生き残りの男にとって、まだ悪夢が続いているとしか思えない光景だった。
「ん〜。何だ? と言われると、まあ、この場合、同業者です」
「……は?」
「何せこんな見た目なんでね、誰も仕事を回してくれないんですよ。かと言って善人から譲って貰うと後が面倒だし」
おもむろに近づいて来るリーデルに、男は思わず近くにあった拳大の石を投げつけていた。
だが石は柔らかい空気袋に触れたかのように何の抵抗も無く森の闇に消えていく、ように見えた。正確にはリーデルの頭がゴムの様に一瞬変形してすぐ戻っただけだが。
「あ、あれか、前襲った村から奪ったのを取り戻しに来たのか? ここに在るのは全部持っていって良い! だから許してくれ! 命だけは!」
「……はぁ」
これまで幾度となく目にした光景、される側だった懇願の姿勢を形ばかり真似して、何とかこの場を凌ごうとするものの、リーデルは軽く呆れるだけで返した。
「勘違いしないで下さい。別に僕は貴方に恨みなんか有りませんよ。寧ろ感謝してます」
「……かん、しゃ?」
「ええ、貴方の様な『奪う事が許される存在』が居るおかげで、僕らが生きていける訳ですから」
言い終わらない内にリーデルは傍に纏めて置いてある盗賊の荷物に向かい、中を漁り出す。それに合わせてターヴィもこちらに背を向ける格好になる。
「弱肉強食の捕食者側としてずっと生きてきた貴方達だ。だったら今この場で更に強い者が現れたなら、肉になるのは当然受け入れるべきですよね?」
「……」
それは盗賊の男にとっては最早意味不明としか言い様の無い理屈だった。それはつまり話し合いが通じないという事。ならば今すべきは一つしか無い。
ガッ! タダダッ!
全力で立ち上がり、リーデルとは逆の方へ走り出す。
{……よしっ! 追ってこようとはしてこない! やった! 助かった! 危なかった! くそっ! あんな化け物がこの世に居るなんて聞いてねーぞ! 自分だけ楽しく生きていければ他人なんてどうなっても良いやと思って盗賊団に居たのに! こんな事なら村で大人しく家畜の世話してれば良かった!}
「ああ、それと、これは本当に自己都合で申し訳ないと思ってはいるんですが…」
{そういや、幼なじみのビービー、元気かな? あいつ知恵遅れだからきっと未だに嫁の貰い手なんて無いだろうなぁ、一度村に帰ってみるか、あんなんでも良い体になってたら、この前攫った女みたいに犯しまくってから捨てても良いし、なんなら村の奴ら皆殺しにして財産持って、別の街で店でも構えて…}
「目撃者を残したくないんです。僕ら自身の今後の安全の為に。本当に、本当にごめんなさい」
「あ…れ……?」
木と木の間にピンと張られた数本の糸に気付かずに全速力でそこを走り抜けようとした男の身体は、何の抵抗も無く十数個の肉塊に『解体』された。
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