2-1
「ちっ、酒が切れたか」
木製の器を口の上でひっくり返してはみるものの、最早一滴の雫も落ちて来ない。
今日は自分が見張り役の日とはいえ、たった一人で酒も無く何も無い夜の森を見続けるのはかなり精神に堪える。そもそもこんな人里離れた森に見張り番をしている時に誰かが来る事なんて今まで一度も無かった。
向こうはもう出来上がってるみたいだし、ちょっと戻って酒を取りにいくくらい問題無いだろう、と思って仲間が集まって酒宴をしている場所に向かう若者は、しかしその途中で奇妙なモノを目撃した。
「何だ? お前……ここで何をしている?」
声に反応して振り向いたのは、一二、三歳くらいの金髪の少年だった。
旅装ではあるが、そもそもこんな子供が一人で旅? まさか騎士でも連れてきたのか? 俺達盗賊を潰す為に!?
そう思い慌てて周りを見渡すが、夜の森の奥に他に気配は感じられない。
「こんばんは。良い夜ですね」
純真無垢な笑顔の少年から発せられる声。それは今まで聞いた事も無い、若者を安心させる音色だった。
それも当然と言えば当然である。若者が仲間以外と顔を合わせる時に相手が発するのは、怒りだったり、悲しみだったり、恐怖から慈悲を乞う声だったり、とにかくロクなものではなかった。こんな柔和な態度で接してくる人間など皆無だった。それが他人を狩る生き方をする盗賊という者だ。
だが、いや、だからこそ若者は恐怖した。理屈ではない、本能から来る未知への恐怖。
「……っく!」
その瞬間逃げ出したなら、或いは別の道があったかもしれない。だが、見張り番を任された責任(実際は酒に弱い奴が場に居ると盛り下がるからだが)と、所詮は子供という状況判断が、若者に腰の剣を抜けと叱咤した。
「……え?」
結果として、若者は剣を抜く事は無かった。柄を握りはした。だが、前に突き出した右腕には、その時既に肘から先が無く、先端は柄を握り締めたまま、だらんと垂れ下がっていたのだから。
「あ……ひ」
ゴトリ
若者が自分の身に何が起きたかを理解し、叫び声を上げる直前の頃には、既に首が切り落とされていた。限界まで圧力を高めた水袋に穴を開けた時の様に赤い噴水がまず上に、そこから周囲に撒き散らされるが、月明かりしか無い状況下ではそれも遠目には分からないだろう。
「……で、どうするの? これ」
「う〜ん、流石にもう保存食も間に合ってるから、森の動物達にあげる事にするよ」
樹の裏で血飛沫が掛かるのを防ぎながら、リーデルはターヴィの問いかけにそう答えた。
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