1-3


「できたわよ」

「はーい」


 葉っぱに乗せられたブロック状の焼きたて熊肉を受け取り、口に入れる。

 調味料なんて無いけど、油が染み出して程良い歯応えがあり、幾らでも食べられそうだ。さすがに熊一頭は無理だけど。


「すっかり僕の好みが分かってきたね」

「ふふん、まあね、ありがたく食べなさい」


 見え見えのおべっかにも得意気に胸を張るターヴィは、僕との【デ・マンドール契約】によって意識と知識を与えられてはいるものの、人形である事には変わりないので、何かを食べる事は無い。調理が終われば後は見守るだけだ。


「熊が来た時はどうしようかと思ったよ」

「何? 私が熊如きに負けると思ってた? 私の爪と糸を自在に操る能力【同じ結末の二択チョイス オブ ア デス】が有れば、熊ぐらい軽く輪切りに出来るんだから」


 ターヴィが右手をかざすと、人差し指の第一関節が外れて中から糸が出てくる。物理法則など無視して蛇の様に一本の糸が伸びて、一気に僕の首に巻かれた。

 あっと言う前に糸は首を締め付けながら超振動を起こし、ものの数秒で僕の頭が胴体から切り離された。小さな頭は音も無く草むらに転がる。


「……」

「……いきなり何すんのさ。肉落としちゃったし」


 僕の『胴体』が『頭』を拾い上げて、ターヴィに文句を言う。それに対しターヴィは一切悪びれる事なく言い放つ。


「あんたの能力【癇癪持ちの子供デッドライン トイボックス】は一時的に人形化して、不死身になれるってだけだけなんだから、文句言わず罠肉役をこなしなさい」

「せめて囮役って言ってよ。狐とかで良かったのに、食べ切れないなって思っただけさ」


 焚き火の上に吊るした肉を見る。なるべく赤みが詰まった部分を更に念入りに血抜きと水分を絞り、細く細切れにする。

 その後、下で残りの部分を焼いている間に出てくる煙を目一杯浴びせて、更に風通しをすれば七日は持つだろう。


「これから七日間熊肉は流石に飽きそうだけど……」

「これから行く先にパンや果物が在れば良いけどね。せいぜい神にでも祈ったら?」

「……あ〜あ、や〜だ、や〜だ」


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