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「この狩り方、もっとどうにかならないのかな? 全身血まみれになるんだよね」


 十二、三歳程度と思われる金髪の少年が、熊の死体が倒れた場所に戻ってきた。小柄で細身の体には今は一切身に付けている物は無く、全身から水が滴り落ちている。

 熊から噴き出した血は、地面に寝転んでいた彼が全身に浴びる事になった。

 服は事前に脱いで離れた場所に置いてきたのでそっちは無事だったが、近くの川で体を念入りに洗う必要があったのだ。


「熊の急所なんて知らないもの。暴れられたら面倒だし」


 場に人間は他に居ない、にも関わらず少年の声に返事をするモノが居た。

 それは人間ではなく、三十センチ程の身長をした少女型の人形だった。

 全体的な体つきで言えば十歳前後の見た目で、球体関節の四肢を持ち、肩より少し長い銀色のツインテールを垂らして、左右で色が違う。

 そんな人形が誰かに操られる事無く熊の死体に乗って、指から伸びた硬質の爪で分厚い熊の毛皮を難無く切り剥がしている。その人形も今は服の類を一切身につけていない。

 

「っていうかリーデル、あんたも手伝いなさいよ。さっさと自分だけ体を洗っちゃって」

「いやいや、僕の役割は囮だろ? 何よりこんな子供に熊の解体なんて無茶振りが過ぎるよ」


 血のこびり付いた手を振り払いながら、人形は少年に文句を言ったが、リーデルと呼ばれた少年は、悪びれる事なく両手のひらを上に向ける。


「身長だけなら私の四倍はある癖に」

「でも年齢で言ったら、三十越えの僕に比べて……」

「何か言った?」


 人形が爪をリーデルに向けると、リーデルはわざとらしく慌てて口に手を当て、頭を振る。そこですかさずリーデルはターヴィにフォローを入れた。


「ターヴィは手際が良いからね。爪を回転させて火も簡単に起こせるし、僕が変に手を出すより効率が良いんだよ。本当に助かってる、いつもありがとう」

「……ふ、ふん。仕方ないわね。ちょっと待ってなさい、すぐ用意するから」


 ターヴィと呼ばれた少女人形はちょっと照れた様子をしつつ(本人は隠し切れていると思っている)、得意気に熊の解体を再開した。

 

{段々扱い方が分かってきたな……}


 リーデルはターヴィに決して聞かれないように、心の中だけでそう呟いたのだった。





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