第3話 咆哮
「……んっ…?」
目が覚めた、だが…眠れたとしても上手く疲れが取れない…。
仕方が無い、こんな所に居ればリラックスなぞ出来る訳が無い…。
けど時間は潰せた筈だ、彼女はそう思い強張った身体を少しでも解そうと、少し身体を伸ばす。
「んっ〜…」
「ギャ!」
「あっ!? 帰って来てたん……です…ね?」
「ギヤァギャア!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!?」
しかし直ぐ側に居たのは、槍のゴブリンでは無く。
口から涎を垂らし、不快な声を上げるゴブリンであった。
そう槍のゴブリンは、まだ帰ってきていなかったのだ。
「ギヤァ!」
「ふぅー!? ふぅー!?」
呼吸が乱れる、油断していた…自分は安全だと、警戒はしていたつもりだが……本当につもりだった様だ。
そうでなければ、今こうして怯えている訳が無い。
「……はぁ…はぁ……?」
しかし…おかしい。
このゴブリンは近付きはしたが、特に何かをする訳でもなく…。
ジッ…っと彼女を見ているだけだった。
(分からない、分からないけど……このゴブリンも私に何もしないの…!?)
残念だが…このゴブリンは彼女に対して特別な感情など抱いていない…。
ゴブリンは悩んでいた、この雌を襲っても良いのかと…。
比較的、最近産まれ…ここ数日で成体となったゴブリンには、まだ巣のルールが染み付いていない。
「ギャア……」
独自の言葉を話している様に聞こえるゴブリンだが…実は言葉に含まれる意味というのは、そこまで多くないのだ。
巣のルールは巣で過ごしているうちに身体で覚える。
教えて貰うものではない、その為…ゴブリンには理解が出来なかった。
何故…目の前の雌を誰も襲わないのか…?
誰も手を付けてない身体…滅茶苦茶にしたい、苦痛と屈辱で歪む顔が見たい。
「……ひっ…」
そんな思いが表情に出たのだろう。
彼女は恐怖で顔が引き攣る……そして、理解した。
このゴブリンは、自分を…そこらで転がっている女達と同じにしか見てないのだと。
ゴブリンは、そこまで賢く無い頭を働かせる。
何故、襲ってはいけないのか?
あの長い棒を持った同族、あれが居るから駄目なのか…?
考える…考える…考えて考えて…ゴブリンは結論を出した。
だから……なんだって言うんだ?
目の前に雌が居る、なら犯せ、蹂躙しろ、種を残す為に。
「ギヤァァァァ! ギャア!!!」
「あっ…やめっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ゴブリンは弱い……弱いが故に群れる。
弱いが故に数に頼る…ならば産まねば…数を増やさねば、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。
定期的にギルドに討伐依頼が出されるゴブリン。
だが、彼等は絶滅しない…弱いなりに進化したのだ。
数を増やすために、ゴブリンの赤子は数日もあれば生殖が行えるようになった。
身体の成長も早く、胎児の期間も短く…進化の果に他種族の雌でさえ利用出来るようになった。
「ギャア!!!」
それ故なのか…?
それとも……元々なのか…?
コブリンの中にある残虐性は…より強く、卑劣で残酷に…どうしてここまで歪んでしまったのか…?
本来は…種を存続させるという、生命の本懐ともいえる能力を延ばし続けたはずなのに…。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
何故こうも…醜いのか。
「痛い!!?」
彼女の髪が強引に掴まれる。
それを右に左へと振ると…痛みを和らげようと身体が自然と引っ張られた方に向う。
ゴブリンは、そんな彼女を見て笑う。
「ギャギャギャ!!」
ゴブリンは直ぐに行為をしない。
それが目的である筈なのに…わざわざ雌をいたぶるのだ。
「痛い…痛い痛いっ!!?」
「ギャ…?」
彼女も自然と、頭を掴むゴブリンの腕を押さえようと両手で掴む。
ゴブリンは首を傾げる…この雌は何をしたんだ? どうして自分を止める? こんなに…楽・し・い・の・に・!!!
「ギッ…!? ギャァァァァァァ!!!!」
「かっ!?」
ゴブリンは彼女の顔を殴り付ける。
突然の痛みに肺から変な空気が漏れる…だが、それだけでは終わらない。
「ひやぁ…やめで!?」
「ギャア!!」
彼女を押し倒しゴブリンは馬乗りになる。
そのまま彼女の顔を殴り続けた。
弱いゴブリンでも、魔物なのだ…それなりに腕力がある。
ゴッ! ゴッ! っと、硬いものが当たるような音が繁殖場に響く。
「かひゅ…ご、ごぇんなざ、ぶっ!?」
「ギギャア! ギャア!!」
段々と…衝突音に湿り気が帯びる。
ゴチャ、ゴチャっと、血が出始めたのだろう…それでもゴブリンは殴る事をやめない、何故なら楽しいから。
胸より下に腰を下ろしてる為、彼女の両手は自由な状態だ。
執拗に顔を狙う拳を避けようと、顔を両腕で防ごうとするが…。
ゴチャ!
片腕を掴まれ、顔から離される…腕は残っているが。
当然ながら顔を隠すには細すぎる、どうしても露出する部分が出てくる。
それをゴブリンは狙って殴る。
ゴチャ!
それでも防がねばならない、殺される恐怖が彼女の身体を動かす。
殴られ痛みを訴える部分に、残った腕をかざす。
しかし…今度はかざした事で見えた部分を殴られる、どうしようもない。
でも…やらないといけない。
「だ、だずげでぇぇぇ!?だれがぁ!?だずげでぐだざぃぃぃぃ!!!?」
叫ぶ、殴られながらも彼女は叫んだ…もう、誰かに助けを求めるしか出来なかったから。
気が付けば…彼女が数日間聞いていた悲鳴、自分もそれを出していた。
だから分かっている…来ないのだ、どれだけ叫んでも、どんなに拒絶しても…来ない、誰も……。
そして…彼女には、まだ絶望が残っている…。
「ゴギャア!!」
「グゲゲゲ!!」
「ゲギャア!!!!」
「………あ、ぁ……」
狙っていたのだ…繁殖場に居るゴブリンが、彼女を狙っていたのだ。
切っ掛けは何でもいい、誰かが先に手を出した…なら自分もやってしまおう。
更に数匹のゴブリンが…彼女に群がる。
「ひぃや…ひぃや、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
暴れる、これから死よりも酷いことをされる。
無駄だと分かっていても身体を捩り、全力で力を込めた。
そのお陰で、馬乗りになっていたゴブリンを振り落とした。
「ギッ!?」
「ゲゲゲゲ!!!」
「グガハァ!!」
落ちたゴブリンを他のゴブリンが笑う……。
その隙に彼女は逃げようと酷く痛む顔を庇いながら立ち上がろうと……。
「ギッガァァァァァァァ!!!!」
上半身に飛び付かれ、彼女は再び地面に倒れる。
飛び付いたのは振り落とされたゴブリン、明らかに怒っている。
彼女の首を掴み締める。
「ぎぃ…ぁ……かぁ…」
抵抗しようと手を伸ばすが…。
ゴブリンは腕を引き寄せ、直ぐに伸ばした。
ゴッ! 彼女の頭が地面に打つかる。
「かっ!?」
「ギガァ!!!」
何度も何度も…己の怒りが治まるまで何度も。
しかし…彼女にとって唯一の幸運は…頭の下に毛皮があったことだろう。
これのお陰で多少、衝撃が和らいでいた。
勿論、用意したのは槍のゴブリンだ…最初にここに連れてきた時、硬い地面を気にしていた彼女の為に用意したのだ。
「ギギァ……? ギヒァヒァ!!!」
ゴブリン達が喜ぶ…その理由は。
彼女の股が濡れていた…死の恐怖と痛み、そして…絶望…漏らしてしまうのも無理はない。
ここまで来て、ようやくゴブリンは手を離した。
もう楽しんだ、面白かった。
そんな雰囲気だ。
「ギヒァ!!」
「キヒャ!!」
だが…他のゴブリンは満足していない。
顔が腫れ上がり、歯も数本折られ、意識も朦朧としている。
そんな彼女に…他のゴブリン達が近付き。
思い思いに暴力を振るった。
「ギヒァ!」
「おぅ…!?」
あるゴブリンが腹を踏み付け。
「や……め……ぎぃぃぃ!?」
「ギハァ!」
また、あるゴブリンが手の指を狙って踏み付ける。
面白い…やっぱり雌をいたぶるのは面白くて止められない。
その苦痛に歪む顔、痛みを訴える声…全てがゴブリン達の快楽になる…麻薬の様に、脳がひりつく。
暫く、殴る蹴る等、好き勝手に彼女を殺さない程度に痛め付ける。
流石と言うべきか、本当に殺さないようにするのが上手い。
そして……彼等は嗜虐心を満たした。
ならば次は、性欲を満たさねばいけない。
「……か……ひ……ゅ…………ひ…………ゅ………」
ゴブリン達に服を引き裂かれても既に抵抗出来ない。
出来る事なぞ…僅かに視界に入る洞窟の天井を何も考えず見つめるだけ……。
諦めたとも違う…本当に何も出来ないのだ。
「ギギァ!?」
「ギヒャヒャ!!」
「ギゴァ!!」
ゴブリンが揉める、誰が一番になるかを決めているのだろう。
その様子を見て笑っているゴブリンも居る位だ。
だが…話が纏まったのか、一匹が近付く。
そのゴブリンは…偶然にも最初に彼女に手を出したゴブリンであったが…。
もはや…どうでも良かった。
「ギヤァ」
皮膚の感覚も鈍くなっているのか…何と無く身体を少し持ち上げられた様な気がした。
位置でも調整してるのか。
「……………ぅ…………ぁ………」
自然と声が漏れ涙が出る…等に枯れたと思っていたのに。
嫌だと叫びたい、大声を出して抵抗したい。
僅かな望みも満足に叶えられず…数秒後には更に屈辱を味わうのだろう。
(あぁ……こんな気持ちなんだ………)
絶望に支配された心で理解する…ゴブリンに捕まるとは、本来こういう意味だったのだと…。
自分は運が良かった…本当なら最初からこうなる筈だったのに…。
でも…その時が来てしまった、もうどうしようもない。
だけど……最後に…どうしても言いたかった。
抵抗ではない…本当に…本当に心から出た言葉…。
乾き、血が付いた唇が僅かに動く…無駄と分かっていても…。
彼女は言葉にして言った…。
「……た…す……けて…」
目から流れる涙は頬を伝い………地面に落ちた。
あぁ…………ここにも英雄は現れない。
ボトッ
何かが落ちた……そう、落ちた、まるで手に持っていた物をそのまま地面に落としたような音。
ひた……ひた…………ひた……ひた……。
足音…それも歩幅が安定していないのか、とても不規則だ。
まるで、とても信じられ無いものを見て動揺したかの様に…。
「ギヒ…? ギヒャヒャ!!!」
最初に気付いたゴブリンは飛び付いた。
何故か滅多に採れない極上の獲物が地面に落ちていたのだ。
中々味わえ無い珍味を独り占めしようと…いや、そんな事すら考えずに貪る。
ボリボリと骨ごと食べ…飲み込む。
「ギヒァ〜」
余りの旨さに、思わずうっとりしてしまった。
それにしても何でこんなところに…?
他にも落ちてるかも!?
ゴブリンは見渡す…たが、探しても見付からない…近くにいるのは別のゴブリン足…少し自分よりも大きいような気がするが…どうでもいい。
「ギ……? ギヒァ!?」
もしかしてコイツが食べたのか!?
そう思ったゴブリンは見上げた、自分のご馳走を奪った奴に痛い目を見せてやろうと…。
だが…………。
「ギ…………………」
言葉が出なかった、先程まであった筈の怒りが消し飛んだ。
身体が震える…死ぬ…このまま、ここに居たら死んでしまう。
そう強く思ったゴブリンは生存本能に従い、仲間に危機を伝えようと声を上げた。
「ギィヒぁ…………ぁ…?」
でも…おかしい?
急に落ちたぞ?
なんだ………?
みんなバラバラに………。
ぼたぼたぼたぼたっ……。
ゴブリンの頭部がバラバラになって地面に落ちる。
首を刎ねた一瞬の間にコレを行ったのだ。
流石の槍さばき。
「ギガァ……?」
今、当に楽しもうとしていたゴブリンが音のする方へ振り向く。
あと少し腰を突き出せば良かっただけなのに…聞き慣れ無い音が聞こえた為に中断してしまった。
あれは……?
長い棒を持った同族、なんだ?
お前の獲物を盗られて悔しいのか?
早い者勝ちだ、仕方が無いから自分の次に使わせてやる。
だから少し待っ…
「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
それは…怒りと悲しみの咆哮。
叫ばずにはいられない…なんだ!?
なんなんだ……この胸の苦しみは!!?
今まで感じた事のない痛み……いや、苦しみを感じ…彼は咆える。
愛する者の無惨な姿に…怒り狂う化物が涙を流していた。
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