それだけの話

ホテルを出ると、多くの人が駅へと向かっている。プラカードなどを持っている人達もいた。原子力発電所の反対運動の人達かもしれない。

「ねえ、僕のお母さん知らない」

 横を見た。朝のショッピングモールのいた辰也と呼ばれ子だ。

「えっ、なんでここにいるの?」

「何が?」

工藤のことをもう忘れているようだった。

「朝、会ったんだけどね」

「ああ、陰湿ネクラババアの隣にいた人」

「それって、ロリータ服の動画を見てた人のこと」

「そうだよ。ヤバい逃げなきゃ」

 辰也は走って逃げていた。

「すみません。また、あいつ」

 ああ、ショッピングモールの別れ話していた男性の方だった。また会ってしまった。

「辰也、待ちなさい」

 工藤のことなどお構いなしに、男性は辰也を追いかけて行ってしまった。子どもがいるのって、大変なんだなと独り身の工藤はつくづく実感してしまう。他人に振り回される人生など、選んでこなかった。だから、孤独でしょうがなかった。

 「あの…」

後ろから声が聞こえてきた。別れ話をしていた女性の方だ。

「朝、会いましたよね」

「はい」

「私、このまま消えようと思ってます」

 話が見えなった。何を突然言い出すのか。

「さよなら、辰也君。行きましょう」

「えっ??」

 女性は辰也が走っていた方とは逆の方に歩き出した。工藤も帰り道がその方向なので、一緒に行くしかなかった。

「私、もう寄り添う人がいないくて精神的に参ってしまって、孤独なんですよね」

「はあ」

 孤独はひとりぼっちの人しか感じないと思っていた。

「精神的に辛くて、あの人も辰也も何でも任せて甘えてくるから、この先が絶望しかなくて、しんどくなって」

女性が目を潤ませ、泣き出して、鼻をすすりながら話している。

 「そうなんですか」

 「だから、もうやめようと思います。駅のコインロッカーに荷物入れて来たんで、そのまま地方に行こうと思いってます」女性はいつしか涙が止まって、清々しい顔をしているように見えた。何かの決意がこもっているようだった。女性は駅に向かうため右に曲がろうとした。工藤の家は真っ直ぐなので、「こっちなんで」と言った。

「そうなんですか、ではこれで、お元気で」

「はい、そちらもお元気で」

女性と別れ帰路を歩いていると、サイレンが聞こえてきた。工藤の脇の道路から消防車が走って行った。女性も家族がいても孤独を感じていた。それは他人からしたら分からないものなのだろう。工藤も自分を甘やかして勝手に絶望を感じいたのかもしれない。

 

「工藤さん、事安ホテルが放火されたから、明日から南岡ホテルに言ってほしい。」

ショートメッセージが届いた。そこに住所まで、添付されていた。

 事安ホテルが放火され、全焼してはいないが、胸などを刺された東と中田の遺体が見つかった。逮捕されたのは、ベテランの立川だった。

 

 

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どうでもいい、ただそれだけ 一色 サラ @Saku89make

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