反対の話

工藤もフードコートを後にすることにした。スマホ画面に、東の名前が点滅している。

「はい」

「ちょっと、午後から来てくれない」

「無理ですよ」

「どうして」

「予定を入れたんで」

「断れるでしょう。じゃあ、13時には来てね」

 電話が切れた。ショッピングモールのソファで、「話を聞けって、そんなジジイみにたいな喋り方して」と話している。「言い訳するなよ」かすれた声が聞こえてきた。 


 行かなくてもいいはずの仕事に向かう。なんで休めないのだろうと思えてくる。それでも、事安ことやすホテルへと足が向く。ダラダラと服を着がえて、フロアに上がる。


「遅かったね」東の無神経な言葉が頭に刺さる。「このフロア、15時までに終わらせて。」2時間でやれと、無理な話だ。

「お客様が戻ってくるから」

 工藤はうんざりしてくる。そんなこと言って、早く終わせろと言わんばかりで、やる気など出るわけもない。タオルを入れ替えて、デスクからベット、バスルームへと掃除を行っていく。無心で続ける。外から、原子力発電所の反対運動の声が少し開けた窓から流れくる。大音量のマイクで騒いでいる。太鼓の音まで聞こえてくる。

『原発反対』『今すぐ止めろ』『今すぐやめろ』『原発ゼロ』

何分にも渡って、繰り返されている。反対運動する時間があるなら働けと思ってしまう。同じことを繰り返し言っている。電気を生み出す原子力発電の代わりになるで発電の話など、何1つ提案こともなく、ただ反対の声だけを叫んでいる。何がしたのだろう。それに電気料金のこともそうだが、困る人も世の中にたくさんいるのに、自惚れしているように、反対運動の声が客室に響いてくる。反対は誰のためにしているのだろう。

 掃除機をかけた部屋は元通りの位置にして、騒音のデモの声を遮るように、窓を閉めた。客室の扉を閉めて、その扉に『チェックお願いします』のマグネット札を貼りつけた。

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