ファフロッキーズ
茂木英世
ファフロッキーズ
現役小学六年生
それを発見した女性はもうエンタが暮らす街にはいない。街を覆う嵐の壁もどこ吹く風というように、エンタがお姉さんと慕っていたあの女性は気ままに外の世界へと旅立っていったのだ。
だからエンタは、お姉さんがいない初めての夏休みを木枯らしに吹かれる落ち葉のようにあてどなく過ごす事しか出来なかった。
「今日もあそこに行きますか? ご
「うー? うん。あ、ていうかその呼び方やめてってば
「では
「何見ちゃったのさ」
「深夜アニメを少しばかり」
エンタは跨る自転車と会話しながら街路をのんびり走る。輪陀と呼ばれる喋る自転車との出会いはつい数週間前であり、それはお姉さんが街を出て行ってすぐの事だった。
この街は比喩ではなく実際に嵐の壁に覆われており、時折外から巻き込まれたものが吹き込んでくる。宇宙検閲室で使われていた黒電話、星の幽霊、全てを計算し終えたアンドロイド。輪陀もその一つだった。
輪陀は最初、渦巻く風の層を浮遊する円盤の形態で抜け出た。それは乱気流に揉まれ、右往左往上下と不安定な軌道を描いてエンタの頭上に辿り着いた。
「おやおや絡め取られたかと思えば素敵な少年と出会えるとは。
オルゴールから流れるように澱みなく軽やかな名乗りを受けて、エンタはほんの少しの間思案し、今その円盤が抜け出てきたばかりの嵐を見る。
「じゃあえっと、リンダっていうのは」
「んあ、リンダ? カテゴライズではなく固有名詞? ちなみになぜ」
「前に来た台風の名前。この街にはあの壁があるから影響すらなかったけど」
「りんだ、リンダ、凛田、輪田、うん、輪陀」
言葉をコロコロと転がす内に、輪陀はガチャゴチョと姿を変えていく。パーツ数も質量保存の法則も無視した変形の結果、輪陀は一台のママチャリになっていた。
それ以来、エンタと輪陀はこの夏休みを共に過ごしている。輪陀は慣れた車輪取りで、「宇宙の種から神殺しの槍まで」と書かれた看板を掲げている駄菓子屋ルルへと向かう。この店で金で買えないものは金だけだとも言われているが、どの程度信じていいものかエンタには分からない。日、角度、タイミングによって明らかに歳が変わって見える店主、通称ホログラム姉さん(婆さんと呼んだ者は人間が視認不可能な光の波長しか反射出来なくされるらしい)と話しているのはドクだった。ドクは挨拶代わりに食べかけの棒つきアイスを振る。エンタも輪陀のベルを鳴らして応じる。
ドクは三年生の頃からずっとエンタと同じクラスで、つい半年前までは博士と呼ばれていた。が、金曜ロードショーで
「俺がしたいのは種まきだ。自分で未来を見て満足してしまっては意味がない。意義がないとは言わんがね」
アイスよりも涼しげな顔でそう言ったドクとエンタは並んでアイスを食べ、その間輪陀はベルを鳴らし、店先の風鈴の音とハーモニーを奏でている。
エンタは最後の一口を奥歯に当たらないように飲み込み、棒を見る。そこには「あたれ」と書いてあった。アイスの棒にも誤植ってあるんだな、と首を傾げながら、エンタは棒をティッシュで包んでポケットの中に入れる。
「あたりか?」
「いや、なんか変なの書いてた」
「そうか、まあそういう事もある。行くか」
「うん」
ホログラム姉さんは大河のような黒い長髪で夏の陽光を余すことなく吸収しながら、最後まで何も言わずにじっとこちらを見ていた。
三宝湯はルルと同じくらい、この客足でどうやって経営しているのだろうと不安になる銭湯だ。輪陀とは入口で分かれ、引き戸を開ければ、番台の上に思い切り足を置いて週刊少年ジャンプを読んでいる番頭の女性、
「おやおや少年達、今日も今日とて湯浴みとはね。夏休みの過ごし方がそれで良いのかい」
「エウレカを求めて」
ドクは短く返し、番台の上に小銭を置く。エンタも続くと、魔伎阿は唇の端を歪めた。それが笑みだと気づくのには少しばかり時間が必要だった。
「頭はよぉく洗えよ、エンタくん」
他に客のいない浴場で二人はダラダラとのぼせるまで話す。ドクの最近の興味は街を囲う嵐の壁の有効活用だ。流動し続ける障壁によって不動を強いられているこの街を掻き乱したい、と素直に語られたのは夏休み初日であり、それから毎日この銭湯で案を練っている。
不動の街、とドクは言うけれど、エンタはそこに例外がある事を知っている。
だってお姉さんはこの街を出て行った。それは十数年間における唯一の例外だが、そのたった一つがエンタにとって最も重要だった。
お姉さんがいてもいなくても、この街の時の運行に歪みはない。始まったばかりだと思っていた夏休みはいつの間にか半分以上過ぎ去っており、その間エンタが積み重ねたのはルルで買ったアイスの「はずれ」棒だけだった。唯一はずれ以外の事が書かれていた「あたれ」棒はいまだ引き換えのタイミングが掴めず、何となく家を出る前にポケットに入れ、帰ってきたらまた机の引き出しに直すという事を繰り返している。引き出しの中には、お姉さんが街を出る前、最後に一緒にルルで食べたアイスの棒が入っていた。「あたり」と書かれた棒を引き換える日はまだ当分来ないだろう。
お姉さんは自由ではあったが理不尽ではなかった。身勝手ではあったが極悪ではなかった。だらしなかったが格好良かった。そういう人だった。そしてそれら全てがエンタがお姉さんに惹かれる理由だった。
総合すれば、よく動くところが魅力的だったのだとエンタは考える。無秩序で無軌道、意義はなくとも意図をもって彼女は動き続けていた。子供がするような無指向性の活動力の発露ではなく、そこには何かしらのルールがあり、その上でルールを見下ろそうとしていた……というのはドクの評であり、エンタは言語化された彼女の要素をゆっくりと飲み込もうとし、まだ喉元でつっかえていた。
「何やら難しそうな顔をしているようですが、私の見えないところで可愛い顔をしないでください」
「もしかしてなんだけど、輪陀ってしょたこんってやつ?」
「何を見たんですかご主人様!」
「深夜アニメの感想ブログを」
「早熟すぎますねご主人様……」
エンタと輪陀は今日もまたルルへと続く道を走る。が、今日がいつもと違い始めたのはここからだった。まず看板に手が加えられていた。「宇宙の種から神殺しの槍まで」の後半部分に大きなバツ印がついている。そして何より、店先にドクがいない。
「風邪でも引いたかな」
「どうでしょう、いつもの眼鏡の少年を知りませんか」
ホログラム姉さんは何も言わない。そういえばアイスの値段を告げられた時以外、彼女と話した事が無い。
別に毎日この時間にここで会おうとドクと約束しているわけではないのだし、まあそういう運の輪の中にいるのかもしれないと納得しかけたが、エンタはこの事象がもっと恣意的なものであるように思えた。
「はあ、考え事しているご主人様の顔がやっと見られた好きすぎる……、出会うまでの五千年間とかどうでもよくなりますね。そういえば大人というか大自転車でも条例とかって引っかかるんでしょうか……」
「なあ坊や」
何やらブツブツ呟き始めた輪陀を放置して、ホログラム姉さんが口を開いた。やっぱり今日は何だかおかしいな、と思いながらエンタは目線を合わせる。
「あのアイスの棒は持ってるか」
「え、とはい、持ってます。たぶん」
「そう、ならいい」
そしてもうそれ以上ホログラム姉さんは口を開かなかった。
とりあえずはいつも通りの動きをしてみようという結論に至ったエンタは輪陀の意識を再起動させ、銭湯へと向かう。魔伎阿は今日もまた次の号のサンデーを読んでいた。
「なあエンタくん、なんでサンデーっていう名前なのに水曜日発売なのか知ってるかい?」
「ごめんなさい、知りません」
「うん私も。教えてくれそうなあの博士くんは今日は一緒じゃないの?」
「ここにいるかなと思ったんですけど、いませんか」
「うん、いない。他にだぁれもいない」魔伎阿はサンデーをバタンと閉じた。「じゃあさエンタくん、せっかくだし一緒に入ろっか」
「へ」
「頭、洗ってあげるよ」
その言葉を正確に処理し終える頃には二人は洗い場にいた。タオルで裸身を覆った魔伎阿の膝の間で縮こまるエンタの頭頂部を彼女はグリグリと指で押す。彼女は浴場でも丸眼鏡を外していなかった。
「本当につむじないんだねぇ」
魔伎阿の声に初めて本物の愉悦が混じる。
「皆ね、頭の中に台風があるんだよ。運命っていう名前のね。それがつむじとして現れている。けど君の中に台風はない」
エンタは思わず頭頂部を抑える。後ろから回されている魔伎阿の手に力が加えられる。
「そういう事さ。君は因果律のうねりから外れた、いわば台風の目、渦巻き連鎖する流転の運命から逸脱した無風領域なんだよ」
「じゃあ僕の台風はどこへ……」
「街を覆う嵐の壁、あれは君の頭から抜け出た台風だよ。あの嵐の壁こそ君の運命で、だから色んなものが吸い込まれ、この街に吹き込んでくる。UFOと出会ったろ? あれなんか分かりやすいね、あいつ自体が運命の輪──まあ厳密に言えば高次の概念存在の影が運命という下位次元概念と重なった事により同一視されているわけだが──だから、引き寄せられたんだろ」
「輪陀を知ってるの?」
「輪陀? あぁ、はは凄いな君、あれに名をつけたのか。そりゃ跨がられたくもなるか」魔伎阿は呵呵と笑った。「まあね、あれこそ私の毛嫌いするものの化身さ。だからこの銭湯を陣にした。干渉出来ないようにね。ここでならゆっくり君を手に入れられる。なあエンタくん。私と来ないか?」
エンタはゆっくりと振り返る。魔伎阿の眼鏡のレンズはこの湯気の中でも曇っていなかった。
「私はこれまで数多の運命の嵐、因果の荒波を超えてきた。けれど代償も大きい。因果律の踏破はあくまでも
「よく、分かんないよ」
「つまり番頭はお前を利用しようとしているって事だ。ちなみにサンデーの由来は、読むと日曜日のような楽しい気分になれるように、ですよ」
入口には服を着たままのドクが立っていた。魔伎阿は驚嘆の意を込めて口笛を吹いた。
「あれ、君よけに色々仕込んどいたんだけどな」
「でしょうね。なのでルルの店主と自転車さんに協力して車軸を戻してもらいました」
「ああ、星読みの魔女にまで手を回されたのなら仕方ないか」
ドクのスクエアタイプの眼鏡はこの数秒でもう真っ白に曇っている。
「で、止めに来たわけだ」
「いえ、興味深いので観察しに来ただけですよ。エンタが何かを決断する事は珍しい」
「だそうだけど。で、君はどうする? 私と一緒に何のしがらみもない旅をしないか」
エンタの後頭部に感じる柔らかい膨らみも、今は意識の外だった。その意識を発生させている頭の中には運命が無いという。それがどういう意味を持つのかエンタには未だよく分かっていない。だから彼は今理解出来ている事柄だけで結論を組み立てる。ドクは偽りなく、一切口を挟まずに腕を組んでエンタの様子を見ていた。
「うん、僕はやっぱりあなたと一緒に行きません」
「そっか、じゃあ無理矢理奪って連れてくね」
「そうか、じゃあ逃げるぞエンタ」
エンタは振り返らずに魔伎阿から離れ、こけないように気をつけながら早歩きでドクが待つ浴場の入口へと向かう。既にドクが回収してくれていた服に手足を通しながら転がるように銭湯を抜け出す。振り返るとそこにもうあの銭湯の姿はなく、大きな影だけがあった。エンタが見上げれば、そこには今まさに銭湯が巨大なガレオン船へと変形しているところだった。最後に煙突が大砲となって船首に配置され、宇宙間航行船〈
操舵輪の前で仁王立ちしている魔伎阿は安っぽい海賊服で包まれている。海賊帽の下から覗く丸眼鏡が不似合いだった。
「私の私による私の為に、私になってよエンタくん」
銭湯の中の湯船に張られていた湯が波濤となって街路に溢れ出す。水はどんどんと量を増し、既にエンタとドクの足首は完全に浸っていた。輪陀が水を掻き分け、二人のそばで急停車した。
「乗ってください。結界化されていたとはいえ、あのろくでなしに私が気づけなかった事に対する謝罪は後でしっかりさせて頂きます!」
「あれ、輪陀は番頭さんの事知ってるの?」
「マキナ・
輪陀は弾丸のような速度で街路を走り抜ける。後ろに乗るドクが振り返れば、あのガレオン船が大波に運ばれるようにして二人と一台を追ってきていた。帆柱にはご丁寧にドクロマークの旗まで掲げられており、完全に海賊船の様相を呈していた。
「多少怪我とかさせるけど許してね、エンタくん。お風呂で沁みて泣いてたら慰めてあげるから」
「いきがるなよろくでなしが! 私のご主人様に触れるな!」
吠える輪陀を無視して、魔伎阿は風もないのに突き進む海賊船に何かしらの操作を施す。街を覆う嵐の壁の中で轟く雷が、突如鎌首をもたげ、数十条の稲妻の蛇の群れとなって船首の大砲を覆う。雷鳴を轟かせ続ける光が高速回転を始める。
「ああ、ああいう使い方があるのか。あの嵐がエンタの運命なら、エンタが生き続ける限り回転が保証されるから疑似永久機関となるわけだ」
そして砲門が一際強く輝く。それと同時に、ガコン、となにかが回る音がした。
発射された砲弾は視認出来なかったが、輝いたタイミングで輪陀が思い切り車体をスライドさせる。砲撃は道路脇の街路樹に着弾した。エンタは幸運と捉えるが、ドクはおそらく輪陀が何かしたのだろうと即座に理解した。ドクの読み通り、輪陀は運命の輪を回して砲撃が当たる可能性を極小にまで操作していた。
身代わりとなった街路樹は抽象化され、ピクセル状に散乱し、最終的に消えた。
「あれが神殺しの槍ってやつだな。ルルの看板から名前消えてたろ。たぶん番頭が買った、というより奪ったんだろうな」
「あれ本当だったの……」
「目の前で使われているんだから本当なんだろう。たぶんだけどあれは着弾した物体の虚構と現実を反転させる。神も現実に引き下ろされちゃ形無しってわけだ」
輪陀はホイールから火花を散らしながら道を次々と曲がっていくが、そこで舌打ち代わりにベルを鳴らした。次の交差点を曲がっても曲がらなくてもしばらく直線が続いてしまう。因果律操作があるとはいえ、真っ直ぐの道であの不可視にして不可侵を破る砲撃を回避し続ける自信はない。
「待てよ、ルルで思い出した。おいエンタ、前にあの店で買ったアイスの棒に変な事が書いてあったと言っていただろ。今持ってるか、貸せ」
ドクは有無を言わさぬ口調でそう言ったが、エンタはそもそもドクからの要望には可能な限り従うと決めている。その判断に足る信頼をこれまでの友人関係で互いに積み重ね合っていたからだ。だから今回もエンタは何の疑問も挟まずに、ポケットに入れたままだったアイスの「あたれ」棒を彼に差し出した。
「あぁ、やはりそうか。あれが本当に神殺しの槍ならばそもそもが形而上の存在を標的としているわけで、うんいけるな。よしエンタ」
「なに」
「次また同じものを撃ってきたら当たれ。たぶん頭、頭頂部からが良い。いや、それは姿勢の都合上難しいか。自転車さん、上手い事出来ますか」
「ご主人様に死ねと言っている人の言う事を聞けと?」
「自分はあなたのご主人様の友人です。それでも無理ですか」輪陀が即答しないのを見て、ドクは言葉を足す。「三年生の時に河原で遊んだ時の写真もつけます」
「心得ました。任せなさい」
自分の下と後ろで勝手に話が進められているが、それでもエンタは異を唱えない。思考を放棄しているのではなく、託している。彼の頭の中はもう既に、次の砲撃に上手く頭頂部を当てさせる事だけを考えていた。
「エンタくん、最後通告だ。来てよ私と一緒に。ぜんぶぜんぶぜんぶ君となら越えられるんだからさ」
輪陀が通った数秒後にはもう無限の波濤が道を襲う。また砲身に光を溜めている海賊船の甲板で仁王立ちを崩さない魔伎阿の声に、エンタは反応しない。魔伎阿はその様を見て歯噛みすることもなく、ただ冷静に丸眼鏡のブリッジを指で押し上げる。
「じゃあもう貰うね。今度は君が私の頭の中にいてよ」
そして再び砲門が爆光を放つ。その瞬間輪陀は思い切りブレーキを効かせながら車体を横滑りさせた。一直線に駆け抜ける神殺しの槍の穂先はエンタの頭頂部へと突き立つ。
そこからの光景はストップモーションのようにどこか不自然で、しかし鮮明に三者と一台の記憶に刻まれている。
槍は確かにエンタの頭頂部に着弾し、しかし虚構化させる事もなく新たな現象を引き起こした。エンタの頭頂部にペットボトルのキャップくらいの大きさの穴が開いた。風呂の栓を抜いて水が渦巻きながら流れていくように、その穴は街を覆う嵐の壁を吸い込んでいく。余す事なく吸収した穴はそれで容量をキッチリ満たしたというように勝手に蓋がされ、それはエンタの一つ目のつむじとなった。
そしてエンタに開いた穴を埋めていた部分はどこへ行ったのか。キュポンと綺麗に弾け飛んだ円形の頭皮は空を舞い、そして形而上下問わず保有していた質量の全てをエネルギーに変えた。膨大なエネルギーは回転をはじめ、平面の渦巻きから立体の螺旋へと変化する。轟く螺旋は街路を満たす水流を吸引し、エーテルのドリルとなって世界を刺し貫く。ドリルの穂先が魔伎阿の乗る海賊船の船首と激突した。拮抗は一瞬、海賊船は爆散し、全ての部品が螺旋の中に消えていく。螺旋は再び姿を変え、今度は巨大な鳩となった。鳩は大きく羽ばたき、空の彼方へと飛び立つ。その進路を阻む運命という名の嵐の壁はもうエンタの頭の中だった。
渦巻く大気だけが残され、三人は髪をグシャグシャにされながら鳩が飛び立った先の空を見ていた。
「つまらないね、つまらないしあっけない幕引きだ。しかし運命的じゃないから嫌いじゃない」魔伎阿は唯一残されていた煙突兼大砲に跨る。その視線はエンタのつむじに向けられていた。「じゃあね、少年達。いつかまたどこかで会うなんていう縁と運命を呪っておくよ」
砲門から爆音が放たれ、箒に跨った魔女よろしく魔伎阿は空に打ち出され、稲妻のような軌道を描いて鳩とは逆方向の蒼穹へと消えていった。
「鳩、ね」ドクは事象を観測し終えて満足したというようにあくびを一つした。「自由意志、もしくは希望の地への求心の象徴。そんなところですか」
「さてさて、あくまで運命を司る私にはなんとも」
「じゃあ僕は自由を代償に運命を頭の中に入れたって事?」
「代償とは少し違うな」
一人と一台は、それぞれ眼鏡をなおし、ベルを軽やかに鳴らした。
「お前がもう一度捕まえに行くんだよ。いつかもどこかも分からん、会える保証もないが」
「自由とはあらゆる知性体が唯一無縁の概念であり、だからこそ自らの手と足を使うのです、ご主人様。掴んだ先で翼を得て飛ぶ為に」
エンタは分かったような分からないような気分になり、とりあえず輪陀に跨る事にした。
「じゃあまずは、お姉さんに会いに行こうかな」
ファフロッキーズ 茂木英世 @hy11032011
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