Iの消失

雑音

Iの消失

短編が書きたくて「腹を空かせた夢喰い」というサイトでお題をもらってきました。

感謝。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ある日、突然Iが消えた。

言葉の通り、Iが消えたのだ。

キーボードにおける最高位の文字達、アルファベット。

ABCDEFG、HJKLMNOP。

QRS、TUV、WXYZ。

Iが足りないのだ。

残された彼等は焦った。

このままではたくさんの言葉が表現できなくなってしまう。

“I love you”が消えれば恋人たちが、

“I hate you”が消えれば何かを恨む者共が困ってしまう。

だからといってIが消えた今“I need you”も言えないのだ。

25文字のアルファベット達は話し合った。

そして彼等は決めた。

何も自分たちが総出で探しに行くことはない。

I need youのIにあたるところに他の文字を当てはめてその文字に探させるのだ。


最初に呼び出されたのは|だった。

残念なことにキーボードにおける最高位の文字達たる彼等、アルファベットは御前に召し出された者の名前を憶えていなかった。

残念なことにコンピューターにおける最高位の検索エンジンたるgoogle先生も彼を認識しなかった。

アルファベット達はgoogle先生の名前をgoog|e先生に変えてまで検索しようとしたが先生は何も教えてくれはしなかった。


次に呼び出されたのは!だった。

彼はエクスクラメーション・マーク、通称ビックリマークである。

エクスクラメーション・マークはIを呼びに行くことを承諾した。

アルファベット達は早速エクスクラメーション・マークを使ってIにメッセージを送った。

“! need you”。

I need youを見慣れたアルファベット達にとって衝撃的な字面だった。

エクスクラメーション・マークはアルファベット達と共に打ち出され、Iを探す旅に出た。

なおN、E、D、Y、O、Uは先に帰り、エクスクラメーション・マークも特にそれを疑問に思うことはしなかった。


浮いた円柱の下に球が浮いた形状のものがぴょこぴょこと動く。

Q、W、E、R、T、Y、U、 、O、P。

本来Iがいるべき席は空席だ。


エクスクラメーション・マークは愛らしく一生懸命に歩いた。

「ごめんくださーい、あいさんはいませんか?」

などとまだ高い声を張り上げて探した。


捜し歩いてどのくらいの時間が経っただろうか、ついにエクスクラメーション・マークはIを発見した。

彼が自分探しの旅と称して行っていた場所を言葉で説明するのは難しい。

キーボードはお手元にあるだろうか。

あるのなら、是非ともエンターキーの下のシフト(shift↑)の左のキーをご覧になって頂きたい。

そう、そのキーの横線部分である。

そこにキーボードにおける最高位の文字の一人たるIは隠れていた。


エクスクラメーション・マークは自分が任務を達成した嬉しさとIを入力できるようになった安心感で胸がいっぱいになった。

「あいさん!やっとみつけました!ぼくといっしょにあるふぁべっとのみなさんのところにかえりましょう!」

キーの隅で茸のようにじめじめしているIに声をかけた。

キーボードにあける最高位の文字の一人は茸を頭に生やしたまま、

「厭じゃー、儂仕事しとうないわー」

と、大変有難く偉大なお言葉をエクスクラメーション・マークに下さったのだ。

エクスクラメーション・マークは今度はキーボードにおける最高位の文字の一人に言葉を返してもらった喜びで胸がいっぱいになった。

しかし、任務は任務。この茸、もといキーボードにおける最高位の文字の一人を他の文字達のもとに連れ戻さなければならない。

「いだいなおことばをありがとうございます!ぼくもいつかあいさんのようにりっぱなもじになれるようにべんきょうをがんばります!ではあいさん、ほかのあるふぁべっとのかたがたのところにかえりましょう!」

Iは直感した。

(この子、儂の言ったこと理解してないわ)

そしてキーボードにおける最高位の文字の一人たるIは神々しく地面に転がって地団太を踏んで抵抗する。

「厭じゃああああああー」

「いだいなおことばをありがとうございます!あいさん、ほかのあるふぁべっとのかたがたのところにかえりましょう!」

エクスクラメーション・マークは少々残念な頭の作りをしていた。

そのため任務のためにキーボードにおける最高位の文字の一人たるIを引きずって歩くことに抵抗を感じることはないのだ。

「あいさん、いきましょう!」

「儂は仕事がしたくないんじゃあああああああー」

偉大な叫び声を残してキーボードにおける最高位の文字の一人たるIはエクスクラメーション・マークにすごい勢いで引きずられていった。

キーに残された元の住人たちはそれを遠い目で見守っていた。


キーとキーを繋ぐ廊下にて。

「仕事厭じゃああああああ」

「だいじょうぶです!あいさんならきっとぜんぶうまくいきます!」

そう、エクスクラメーション・マークは文章に勢いを追加したいときに使う記号。

見た目は幼くとも、力は強く勢いも多分に持っているのだ。


キーボードにおける最高位の文字達は今更ながら後悔していた。

まだ幼いエクスクラメーション・マークを一人でIのもとに向かわせてしまったのだ。

後悔するのも自然なことである。

しかし仕方がないことだろうと彼等は自問自答する。

彼等は彼等で忙しいのだ。

彼等の偉大さを知らない方々がいるのは大変宜しくないことであるので、エクスクラメーション・マークが到着するまでの間にキーボードにおける最高位の文字達の普段の仕事ぶりをご紹介しよう。

雑談ソシャゲ就寝睡眠食事睡眠睡眠。

これらのことを毎日それぞれ一日でこなしているのだ。

忙しいのは自明の理である。


「ただいまもどりました!あいさんをおつれしました!!」

エクスクラメーション・マークの元気な声とともにドアが大きく開けられる。

「戻ったかエクスクラメーション・マーク!Iは無事かえ?」

「はい!ちょっとあたまにきのこがはえてますけど、げんきです!」

「儂仕事したくないいいいいい」

神々しい叫び声と共に部屋の奥に引きずり込まれるI。

「ご苦労じゃったの、エクスクラメーション・マーク」

「いえいえ!いつでもおまかせください!」

こうしてエクスクラメーション・マークは『Iの消失係』、つまりIが仕事から逃げ出したときの連れ戻し役として活躍することになったのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


はい。雑音、初の短編書いてみました。

どうでしょう、うまくできたでしょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Iの消失 雑音 @hiyoppe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ