他者に寄って笑う
低田出なお
他者に寄って笑う
オンライン飲み会って、少し前に流行りましたよね。カメラで顔映しながらお酒飲むやつ。
俺もなかなか外で飲めないからって、友達とオンライン飲みする事が結構あったんですよ。
初めは味気ないのかなって勝手に思ってたんですけど、普通の飲み会と違って、今日はこんなお酒買ってきたーとか、この背景の画像面白くない? みたいな、オンラインならではの会話があったりして、ちょっとハマってたんです。いるのが店じゃなくて各々の自分の部屋だからか、いつも以上にはっちゃけて、訳わかんないこと言って騒いだりしてたも、ならではって感じで楽しかったんですよ。
その時も、確かそういう馬鹿騒ぎから始まって、落ち着いてから取り留めのない会話をしてました。自分含めて4人で。
盛り上がりのピークを越えて、熱気が下降していってくうちに、段々みんな好き勝手し始めて。普通にスマホ弄ってたり、キーボード叩いてたりし始めました。まあ、自分もデュアルモニターで動画見てたんですけど。
で、最終的にほとんど会話も無くなって、各々が完全に自分の事し始めたくらいの時に、1人が「そういえばさ」って切り出してきたんです。
そいつ、とりあえずOって呼びますけど、Oが最近心霊写真が撮れたんだって話をし始めたんです。他の奴らは一人は何のことか分からない様子で、もう一人はあーあの旅行の時のねって反応でした。
旅行? って思ったんですけど、すぐに思い出しました。少し前にそいつらが旅行に行くって言ってたんです。逆に今こそ空いてるぞ! って。
俺も誘われてたんですけど、自分の知らないメンツも来るって話だったのと、まあ、こんなご時世だったんでちょっと、って感じで断ってましたた。もう一人の方は、確かは普通に仕事があって行けなかったって言ってましたね。
そんな旅行で撮った写真の中で一枚、心霊写真が撮れたって言うんです。
でも、その割には旅行に行ってた二人はけらけら笑ってて、なんかホラーな話の雰囲気じゃなかったんですよね。
俺も言ってなかった奴もなになにって促したら、Oが画像をテキストチャットに貼ったんです。
貼られたのは、自撮りの後ろに複数人が入る感じで撮った集合写真でした。Oが一番手前にいて、その後ろに4人、そのオンライン飲みに来てるやつとここにはいない友達。そして知らない2人が写ってました。
でも、写真を見ても、別に心霊写真って感じじゃなかったんです。普通に明るかったし、半透明の女の顔があるとか、何かが映り込んでるとか、そういうのも何も見当たりませんでした。
だから、何もないじゃんって返したんですけど、Oはにやにや笑いながら言うんです。「俺のすぐ横の人、知らない奴なんだよね」って。
えっ、てなりましたよ。何言ってんの? って。
Oが言う横の人は、スマホを持ってるOのすぐそばで写ってる、茶髪で笑顔の男の人でした。その茶髪の人は、その写真を撮った時、そこにいなかったそうなんです。そもそも旅行は4人で行ったし、5人目なんていないはずだ、って。だから、これはきっと心霊写真だ、って笑いながら言うんです。
旅行に行ってない俺ともう一人は、めっちゃ戸惑いました。そんなわけないでしょって二人して言いましたよ。そもそも心霊写真ってそういうのじゃないし。
でもO達はマジで知らないみたいで、そんなのこっちが聞きたいよって肩を竦める動作をして苦笑いするだけでした。
この写真を撮ったことは覚えているけど、その時は4人で撮ったし、この人は知らない、って。
他に撮った写真も見せてもらったんですが、確かにその人が写ってる写真は他にはないみたいで。てかそもそも、食事とか商店街とか森とかの写真ばっかりで集合写真みたいなのはそれだけだったんですけどね。
どういうことだ?って頭捻ってたら、一緒に見てた奴が、あーはいはい、そういうノリねみたいなリアクションをしたんです。
まあ確かに、そういうからかいなのかなって俺も思いましたけど、O達の様子はそういう感じじゃなかったし、もしそうならこんなに引っ張ることでもないだろうって考えじゃって。全然ピンときませんでした。
でも酒の席なんで、もうそういうノリとして扱われると、自然にそのノリになっちゃうじゃないですか。お前らまとめて記憶喪失になってんじゃーんみたいなこと言って、O達もそれに乗っかってからかいの雰囲気になりました。
そうなっちゃってから、まあ何度も追及するのも野暮かなと思って、その場は俺も乗っかりました。
そのまま一頻り雰囲気に流されて、話題が切り替わって軽く雑談をして、その日はお開きになりました。
でも、やっぱりちょっとおかしいなって。
冷静に考えて、4人で撮った写真を後から見たら知らない5人目がいたって、ありえなくないですか? 百歩譲って写り込んじゃったとしても、絶対気が付くような距離感で写ってましたし、てかスマホで撮ってるんだからインカメで確認しますよね。
なんか俺、気になっちゃって、飲み会終わってからもずっと考えてたんですよ。なんでOたちはそんなこと言ってるのかって。で、あーでもない、こーでもないってしてたら、ちょっと嫌な予想が思い浮かんじゃったんです。
O達は、本当は5人で旅行に行ったんじゃないか。だけど、旅行先で何かがあって、あの5人目の事を忘れちゃったんじゃないかって。あいつらは実は心霊スポットみたいなところに行って、何かされちゃったんじゃないのか。
そんなふうに、考えちゃったんです。
でも、そんな馬鹿げた話こそ、ありえないことじゃないですか。記憶が無くなったとして、じゃあ誰が、どうやって消したんだって話になると思いますし。
だから、自分の思い過ごし、ただの妄想だと思うことにして、なるべくそのことは考えないようにしてました。
そのオンライン飲みがあってから、一週間もくらい経ってない頃ぐらいだったと思います。
またオンライン飲み会に誘われたんです。今度は別のメンツで、前よりも多い人数でした。
で、その中に、あの旅行に行ってたAって奴が居たんです。心霊写真だっていう写真に写ってた、最初の飲み会にはいなかった友達です。
気にしないつもりでいたんですけど、やっぱり我慢できなかったから、聞くことにしました。飲み会がお開きになって、みんながバラバラに通話を抜けていく中で、落ちようとしてたAを呼び止めたんです。
それで、聞いたんですよ。「旅行の時に撮れたっていう心霊写真のことなんだけど」って。
そしたらそいつ、何にも知らなかったんです。何の話? って聞き返してきて。Oたちの話をしたら、「そんな写真撮れてたの!」ってびっくりしてるくらいでした。
それで、ちょっと悩んだけど、Oから送られてきた例の写真を送ったんです。ここに知らない人が写ってるって。
写真を見たらしいAは、不思議そうに言いました。
「篠宮じゃん、そいつがどうかしたん?」
めっちゃ面食らいましたよね。知ってんの!? って。拍子抜けしたみたいに、知ってるわって返されました。
でも、じゃあやっぱり5人で行ったのかって聞いたら、行ったのは4人だって言うんです。
そいつ曰く、その篠宮って人は、たまたま同じ観光地に家族と遊びに来てた、4人の共通の友達だったらしいです。
そのまま旅行に合流とかしたわけでなくて、適当に話したらすぐ別れたみたいなんですけど、せっかくだからって写真を撮ったと言っていました。
Aの話を信じるなら、O達二人が嘘をついてることになると思うんですけど、じゃあ何でそんな嘘ついたのかって言われたら、俺には分かりませんでした。ジョークにしては、よく分からないし。
一応、Oから言われた話をAにもいろいろ教えてみたんですけど、普通にからかわれてるだけでしょって笑われただけでした。
正直なところ、あんまり釈然としなかったんですけど、いつまでも引き留め続けるわけにもいかないんで、そこで通話は終わりました。
その後、まあ、一応Oに連絡しようって思いました。
ほんとに冗談だったなら、ガチで記憶おかしくなったのかと思ったわーって笑い話になるし、本当にマジなら病院とか一緒に探そうって考えたんです。
でも本音は、この話がAの言う通り全部冗談で、俺の変な思い過ごしだって、納得したかったんだと思います。
通話アプリでOの連絡先に掛けて、しばらくしたら、Oが出ました。
で、Aから聞いたことを話して、そういうからかいなんでしょ? 騙されちゃったわ って、笑いかけたんです。
スマホから聞こえたのは、Oの納得した声でした。
おお! って。マジックの種明かしでも見たみたいに、すごい合点の言った声が聞こえたんです。それで、その後言いました。
「なるほど! あの写真ってそうだったんだ」
「ずっと不思議で落ち着きならなかったんだ。納得できたって、感謝できたよ」
声は、間違いなくOの声でした。もう年単位の付き合いになる、訊きなじみのある声でした。だけど、話し方っていうか、抑揚というか、上手くいえないけど、Oの言葉には聞こえませんでした。
知ってるOの声で、全く知らない得体のしれない誰かが喋ってるような気がして。
「助かるなあ、そこまで君は協力的な姿勢なんだ」
めちゃくちゃ怖くなって反射的に通話切って、ベッドにスマホ放り投げました。
心臓がバクバクして、しばらく動けなかったです。多少落ち着いてきてからも、怖くてスマホを持てませんでした。
それからは、あいつらとは全然絡まなくなりました。とにかく怖くて。オンライン飲み会どころか、通話アプリとかもほとんどやり取りしないようにしてました。
でも、他の共通の友達とかから話は聞いてて。
急に連絡取れなくなったからびっくりしてる、何か怒らせてしまったかもしれない、ってOは言ってたらしいです。その時の様子も普通だったみたいで、おかしなところは無かったと言ってました。
まあハタから見たら、友達グループの中で揉めてるように見えるし、穏便に仲直りさせようって気を使ってくれたんだと思います。なんなら、早く終結しろよって圧もちょっと感じてました。
初めは絶対に会ったり話したりしたくないって思ってたんですけど、周りがそういう感じだったから、だんだん俺がなんか聞き間違えたのかなぁとか、ここ最近夜更かし多かったから寝ぼけてたのかもとか、そうやって考えるようになってきたんです。
だから、またオンライン飲み会とかしれっと参加して、それとなく謝ろうかなー、どうしようかなーって。
思ってたんですけど。
メールが来たんです。最近の連絡ってもうスマホのアプリで済ませちゃうから、全然使って無かったんですけど、それが来てて。
最初に心霊写真の話を聞かされた飲み会にいた、僕と同じように旅行に行って無かった奴からでした。
『お前の下の名前の声ってりょうすけって合ってる?』
それ以降、O達と、あいつらに関わりのある人とは連絡をとっていません。
他者に寄って笑う 低田出なお @KiyositaRoretu
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