第36話 魔剣祭9
先輩は影の縛りから抜け出そうとしているが、一向に抜け出せる気配がない。
その間にも相手は魔法の詠唱をしている。
次で仕留める気だ。
「ウォータースピア」
先輩めがけて水の槍が高速で迫ってくる。
当たれば敗北は濃厚。
水の槍が先輩に直撃…したと、観客は思っただろう。
しかし、先輩は影の縛りから抜け出していた。
「どうやって・・・」
対戦相手は困惑している。
先輩がなぜ影の縛りから抜け出せたのか見抜けていない。
それもそのはず、先輩が魔剣に光魔法を込め、そこから影の縛りを切り刻む時間は0.1秒にも満たなかった。
熟練の魔剣士ですらこの動作をするのに1秒の時間を要する。
この土壇場でこんな事をやってのけるのか。
いや、土壇場だからか。
だが、さすがのAクラス。
困惑しつつもしっかり警戒している。
「スピードブースト」
先輩はスピードブースト(移動速度を大幅に上げる魔法)を使用し相手との距離を一気に詰めた。
形勢逆転。
先輩の振った剣は対戦相手の腹部を切り裂き、そのまま試合終了の合図が鳴った。
次の試合はとうとうシエラが出場する。
俺が直々に指導したのだから1回戦で負けて欲しくない。
まあ、心配はしていないが。
対戦相手はDクラスの生徒。
相手からすれば運が悪いとしか言いようがない。
4つもクラスが上という事は相当実力差があるという事だ。
下手したら何もできずに終わってしまう可能性がある。
お互いが適切な距離を保ち試合開始の合図を待つ。
対戦相手は絶望の表情をしていて、今にも泣きだしそうだ。
「開始」
審判の合図とともに相手は詠唱を開始したが、詠唱が終わる間もなくシエラの詠唱が終わり、魔法が直撃した。
シエラはDクラスの生徒にも手加減せず、俺が教えたファイヤーボールを放った。
会場に轟音がとどろき、砂煙が立つ。
良く見えないが、対戦相手は満身創痍の状態だ。
生存の魔道具のおかげで生きてはいるが、一つのトラウマを抱えてしまった。
観客もこの光景に唖然としている。
学生が出せる魔法の威力を優に超えているのだ。
それも、初級の魔法で。
シエラは何事もなかったようにその場を後にする。
「君が教えたのかい?」
学園長がニヤニヤとした表情でこちらを見てきた。
「俺は何もしてませんよ」
「嘘だー」
学園長はまるで俺がシエラに指導したことを確信しているかのように笑っている。
正直周囲に人がいる状況でこのような会話をしたくない。
そんなこんなで校内選は続いていき次はレナの出番だ。
地味に俺が楽しみにしている選手の一人。
Sクラス2位の実力。
学院の評価ではシエラよりも上。
今のシエラより上かは分からないが、強いことは確実だ。
本人の性格からして努力せずにSクラス2の地位にいる。
果たしてどんな戦闘スタイルなのか。
レナは眠そうに入場する。
やる気がないのがこちらにも伝わってくる。
対して対戦相手は3年Aクラス。
やる気に満ち溢れている。
クラスはレナよりも下だが、学年が2つも上だ。
油断したら敗北する可能性がある。
だが、俺の予想に反して試合は意外な結末を迎えた。
審判の試合開始の合図とともに対戦相手は意識を失った。
その間は0.1秒にも満たない。
詠唱する時間すらなかった。
レナは試合前と変わらず眠そうに会場を後にする。
レナが何をしたのか気づいたのは俺と隣にいる学院長だけだ。
恐らくだが、前提としてレナは俺と同じで無詠唱魔術を使える。
そのため魔術を発動するのに時間がかからない。
そして、レナが使った魔法は無属性魔法。
それも、自分で編み出した魔法だ。
相手の魔力を操って体内の魔力循環を鈍らせたために起こる意識の混乱、魔力不足を疑似的に起こす魔法。
相手の魔力を操るには自分の魔力が相手以上の質を持っていないといけないが、レナはそれをやってのけた、
それも、3年Aクラスの生徒に。
これで、1回戦が終了した。
その後も試合は進んでいき、ロイド、レイン共に3回戦で敗北した。
Eクラスという事を踏まえるとかなり良い結果だ。
エルミナ先輩は4回戦まで勝ち上がったが、その後シエラと当たり敗北した。
さすがにシエラの火力の前には手も足も出なかった。
とうとう決勝戦。
対戦カードはシエラとレナ。
魔剣祭への出場権は3枠。
そのうちの1枠は俺が持っているため残りは2枠。
つまりこの2人は魔剣祭出場が確定した。
よって、この後に起こることは予想できる。
シエラが入場し、10分以上経過する。
が、レナは来ない。
俺の予想通り、レナの目的は魔剣祭に出場すること。
つまり、魔剣祭出場が決定した彼女にとってこの後の試合はやる意味がない。
「レナ・シルエット選手の危険により校内選優勝はシエラ・ルミナ選手です」
実況の選手がそう言ったとたん観客席からブーイングの嵐が聞こえてきた。
学院長が言うには決勝戦がこのような形で終了するのは学院創立以来初めての事らしい。
まあ、色んな所から今年のSクラスの生徒は問題児ばかりだという話を聞く。
学院長はこの結末を予想していたかのように落ち着いて校内選終了の宣言をした。
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