第35話 魔剣祭8

次はロイドの試合。

相手は同じくDクラスの生徒。敗北したら即退学。

対戦相手は格下のクラスが相手なこともあり、余裕の表情を浮かべている。


「開始」


審判の合図で試合が始まる。

レインの時の試合とは異なりお互いに動き出さない。

Dクラスの生徒は相手の様子を伺っている。

いや、ロイドが格下という事もあり先手を取らせようとしている。

見ていて気持ちが良いものではない。

観客席の反応はブーイング半分と肯定派半分といったところか。

実力主義の学院故に、下のクラスの生徒は文句を言うことが出来ない。

文句を言うには勝つしかない。



ロイドはというと、相手を警戒しつつ何やら詠唱している。

この場で気づいている人間はどれほどいるか定かではないが、ロイドの体内から魔力があふれ出している。

これは、超上級以上の魔法を放つときに発生する魔力霧というものだ。

魔力霧はある程度魔力について理解していないと見ることが出来ない。

Dクラスの生徒の様子から推察するにこの魔力霧が見えていないだろう。


かなり長い詠唱を終え、とうとうその時が来た。

ロイドの周囲に舞っていた魔力霧が一点に集中している。


「炎舞(えんぶ)」


ロイドは一点に集めた魔力を炎に変換させ、圧縮し相手めがけて放った。

炎舞(えんぶ)、超上級魔法。

超上級魔法は学生で使える生徒はあまりいない。

それを、一番下位のクラス、Eクラスのロイドが使ったのだ。

会場が盛り上がらないわけがない。


「皆さん、見ましたか。Eクラスの生徒が超上級魔法を放った瞬間を!!」


実況の生徒が興奮気味に現状を伝えている。

俺自身も驚いた。

初めて受けた特別試験の時は友人を助けることすらもできなかったロイドが、今は超上級魔法を使用している。

相手が、油断していたとはいえ、すさまじい成長だ。

ここ数日は炎舞だけを訓練していたのだろう。

実にロイドらしい。


炎舞はDクラスの生徒に直撃し、そのまま意識を失った。

本来は死亡するレベルの攻撃だったが、校内選の参加者に配られている生存の魔道具のおかげで死亡することはない。

さすがに、度を越えた魔法を食らえば死亡するが、超上級魔法くらい大丈夫だろう。


ロイドが退場し、一時休憩に入る。

俺は、いつものメンバーと昼食を取るために待ち合わせ場所で合流する。

レインかロイドが負けていたらお通夜のような昼食になるところだった。

少しほっとした。



レイン、ロイド、シエラと合流しいつもの中庭で昼食を食べる。


「それにしても、ロイドの魔法すごかったな」


「だろ。あの魔法だけを練習してきたからな。」


やはり俺の予想は当たっていた。


「レインもすごかったぜ。」


ロイドもレインの試合を見ていたようだ。

確かに、レインの魔法もかなり良かった。

超上級魔法ではないにせよ魔法を同時に展開するのはそうそう出来ることではない。


「ありがとう」


「次は、シエラだな」


「そうね」


シエラは特に緊張している様子もなく普段通りだ。

まあ、シエラなら大抵の相手なら負けることはないだろう。

俺との特訓でシエラの初級魔法はロイドが放った超上級魔法を凌駕する威力を持っている。

並大抵の相手では防ぐことは出来ないだろう。




昼食を食べ終わり、校内選が再開される。

次の試合はエルミナ先輩の出番のようだ。

エルミナ・スカイ、剣術部部長。3年Bクラス。

以前、体験入部させてもらったときにかなりお世話になった。

この人にはぜひ勝利してほしい。


対戦相手は3年Aクラス。

学年は同じだが、クラスが一つ上だ。

エルミナ先輩の魔力量は見た感じ決して多くはない。

何ならレインやロイドと同程度だ。

じゃあ、なぜBクラスに在籍しているのか。

それは、彼女の腰についている物を見れば分かる。

彼女は腰から魔剣を取り出す。

そう、おそらく彼女は魔剣を駆使し、少ない魔力でBクラスまで上がったのだろう。

魔剣ならばあまり魔力を使わない。

使うとすれば魔剣に魔力を注ぐ時と、身体強化の魔法くらいか。

俺自身、そこまで魔剣に詳しくはないが、かなり昔に優秀な魔剣士と話す機会があったが、魔剣を扱えれば、そこらの魔術師よりも強いという感想を持った。


先輩と対戦相手は適度な距離を取る。


「開始」


審判の合図とともに早速先輩は魔剣を一振りし斬撃を放つ。

魔剣に炎の魔力を込めているのか、斬撃に炎が纏っている。

だが、対戦相手はAクラス。

いともたやすく止められてしまった。


すかさず先輩は対戦相手との距離を詰める。

魔剣士は7割剣士の性質を持っていると言っても過言ではない。

魔術師の弱点として近接戦に強くないというのがあげられる。

一方、剣士は近接戦に強い。

よって、先輩が相手との距離を詰めたのは非常に理にかなっている。

無詠唱魔術を使えない魔術師にとって剣士が接近してくるのは恐怖でしかない。


相手は様々な魔法を駆使し、先輩との距離を取ろうとするが先輩はそれでも距離を詰める。


先輩の魔剣が相手の首に届きそうになった瞬間その魔法は発動した。


「影の縛り」


対戦相手が使った魔法は影の縛り、拘束魔法だ。

光系統の魔法から派生した中級魔法。

先輩から逃げ回っているときに詠唱ではなく、自分の影を利用して魔法陣を描いていた。

さすがはAクラス。

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