第33話 魔剣祭6

そこで、また警備員の足音が聞こええてきた。

こちらに近づいてくる。

だが、もう見つかっているんだ、逃げても仕方がない。

すると目の前の少女が俺の手を引いて物陰に隠れさせた。


「危なかったね」


「何で、助けてくれたんですか?」


「見つかると怒られるでしょ。」


「俺の事を報告とか」


「そんなことしない」


少女は大げさに首を振る。

どうやら、記憶をいじる必要もなさそうだ。


「それよりも、君一年生でしょ。敬語使わなくていいよ。私も一年だし。」


「分かった」


「それで、君は何クラス?Aとか?」


「いや、Eクラスだ。」


「え?」


少女はかなり驚いているが、Eクラスがそんなに珍しいのだろうか?


「何でEクラスなの?」


「何でと言われても俺の実力がEクラス程度だと判断されたんじゃないか?」


「本当に?」


少女は疑っている。

なぜ少女が疑っているか一つだけ心当たりがある。


「魔眼」


俺がそう呟くと少女は一瞬ビクッと体を震わせこちらを見つめてくる。


「何で分かったの?」


そう言うという事は、少女は魔眼持ちなのだろう。

魔眼とは色々な種類が存在し、生まれながらに持っている者もいれば、後天的に出現する者もいるかなり希少価値が高い目の事だ。

少女が持つ魔眼はおそらく他人の魔力を見ることのできる能力。

普通の人間は微少だが、体から魔力を常に放出している。

俺も同様に魔力を放出している。

しかし、俺はそれを制御しないと魔力が多すぎて周りの人間に影響を与える。

よって日頃から魔力を放出させないように制御している。

これにより、魔力探知に引っかからないなどのメリットが存在する。

だが、一部の魔眼持ちは体内に存在する魔力を見ることが出来る。

俺はその魔力すらも隠蔽魔法で隠していたが少女はそれでも見えている。

まあ、全体の魔力の1%未満だろうけど。



「君は俺の内に秘めた魔力を見ることが出来たから、俺がEクラスであることに驚いたんだろ。まあ、俺は魔力はある方だが扱いが上手くないからEクラスなんだけど。」


適当な嘘をついた。

じゃなきゃ俺の正体がばれる可能性があるからな。



そんなことよりも俺は少女に興味を持ってしまった。

俺の隠蔽魔法を少しだけでも貫通する魔眼を持つ少女。

惹かれないわけがない。


その後、色々と雑談をした。

名前はレナ・シルエット。

先天的に魔眼があったらしい。

驚いたのが、レナは一年Sクラスの2位。つまりシエラより強い。

学園長は1位と2位は気難しい性格だと言っていたがそんな感じはしない。


「レナは、魔剣祭に出場したいのか?」


話の流れでそんなことを聞いてみた。


「いや、本当は出場したくないけど、学園長に懇願されて仕方なく参加することになった」


「何で出場したくないんだ?普通は出場したくても出来ないのに。」


彼女は少し微笑んで答える。


「めんどくさいからかな」


この答えでレナとの会話が楽しい理由が分かった。

俺と性格が似ているからだ。

俺が、魔剣祭に出場したくない理由はもちろん実力がばれたくないからだが、シンプルにめんどくさいという理由も大きい。

この学院は実力主義という事もあり生徒全員、血の気が多く、戦いを好んでいる。

俺やレナのような考え方をしている奴はこの学院にはそうそういない。


「私は別に将来の事とか考えてないの。Sクラスになった理由は、ただ待遇が良かったから。このSクラス専用の寮だって良いでしょ」


彼女の考えには非常に共感できる。

ただ、もったいなくも思う。

彼女には才能があり、強くなろうとする気持ちがあれば、ザトム軍の軍隊長クラスにだってなれるはずだ。

だが、俺がそう言っても無駄だろう。

俺が彼女の立場でも強くなるように努力はしない。



「校内選でわざと負けるのもありかなって思ったけど、学園長が怒りそうだからとりあえずは魔剣祭の2回戦くらいまでは進もうかなって思うよ」



とことん俺と似たような性格。

まるで、鏡を見ているようだ。

なぜ、神は努力をしない俺やレナのような人間に才能を与えたのだろうか?

もっとこう、シエラやレイン、ロイドのような努力をする人間に才能を与えればよかったのに。

そんなことを思ったが、そういえば神はリリアだった。


「で、ノアは校内選に出場するの?」


「しない」


短くそう答えた。

本当にノア・ルクレアとしては出場しないが学園長が用意した別人名義では出場する。

嘘はついていない。


俺の答えにレナは笑った。


「やっぱりノアもめんどくさいから?」


「まあ、それもあるけど、俺じゃあ仮に出場しても勝てないし」


「確かに、Eクラスだと可能性もないか」


本来ならば失礼な一言だが、俺とレナの間にはこの一言はただの笑いの種でしかない。

シエラなら誰にだって勝てる可能性があるとか言いそうだが。



会話が無くなり少し沈黙が訪れた。

だが、気まずさは感じない。


「魔眼見せてあげようか」


彼女はふとそんなことを口にした。

魔眼はその人特有の色があり、魔眼持ちはそれをひけらかすのが普通だが、レナは隠しているようだった。


「見せてくれるなら」


俺がそう言うとレナの眼の瞳はピンク色に染まった。


「綺麗だな」


そんな感想を呟く。




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