第32話 魔剣祭5
俺は岩に防御魔法を付与した。
これは魔法射撃で景品に付与されている魔法と同じ魔法だ。
だが、強度は倍以上ある。
「じゃあ、次はこの岩めがけて何でもいいから魔法を打ってみろ」
そう言うと早速シエラはファイヤーボールを岩めがけて放った。
シエラの放ったファイヤーボールは岩に命中したが傷一つ付いていない。
「なにこれ、硬すぎでしょ!」
「そりゃ、俺が防御魔法を付与したからな」
「それにしたって傷一つ付かないなんておかしいわ」
「それは、シエラの魔法の威力が弱かっただけだ。」
そう言うとシエラは頬を膨らませ拗ねてしまった。
「まあ、今から強くなればいいから…」
軽くフォローしておく。
「じゃあ、今日はこの岩を壊せるようになることが目標だな」
「分かったわ。それで、どうやって魔法の威力を上げるの?」
「そうだな…少し厳しいが、俺が昔やっていた訓練法を授けよう」
シエラが固唾をのみこむ。
「それで、内容は?」
恐る恐る聞いてきた。
「・・・」
「早く言いなさい」
緊迫した雰囲気を出したかっただけだが怒られてしまった。
「魔法を打ちまくる。それだけだ」
「それだけ?それで強くなれるの?」
「ああ、強くなれる。現に俺はそれで強くなった。それに、意外と魔法を限界まで放つのはつらいぞ」
それからシエラはファイヤーボールを数十発岩めがけて放った。
「ハアハア」
シエラは明らかに疲れている。
そりゃあ、始めのうちは疲れて当然だ。
「もう疲れたのか?」
少し煽ってみた。
すると、鋭い目つきで睨まれた。
「まだいけるわよ」
そう言ってシエラはさらにファイヤーボールを放つ。
だが、最初の時と比べると威力がかなり落ちている。
シエラは膝から崩れ落ちる。
魔力の限界か。
「どうだ?魔力が底を尽きた感覚は?」
シエラは魔物討伐で一度魔力枯渇ギリギリを体験したが、本当の魔力枯渇は今回が初めてだろう。
「最悪の気分ね。もう、一歩も歩ける気がしないわ。」
「じゃあ、この訓練の意図を教えてやる。」
そうして俺は自分の経験から感じた見解を話す。
「俺たちの体には魔力回路と呼ばれる魔力が流れる血管のようなものがある。もちろんそれを見ることは出来ない。その魔力回路は初めのうちはかなり細いが魔法を使い続けると次第に太く頑丈になる。太く頑丈になれば、今までよりも高出力で魔法を放つことが出来る。」
「なるほど、つまり私の魔力回路はノアに比べて細いという事ね。」
「そうだ。」
俺はシエラに手を差し伸べて、自分の魔力を渡す。
「これで、魔力は回復したはずだ。無くなったらまた補充してやるから今日一日魔法を打ち続けろ」
俺はそう指示をだし、シエラが岩に向かって黙々と魔法を打っている様子を観察する。
魔力が枯渇しては俺が補充しそれの繰り返しで一日が終わっいく。
日が暮れてきたがまだ岩が壊せていない。
「もうそろそろ諦めたらどうだ。」
「まだやれるわ」
シエラは諦めが悪いタイプのようだ。
嫌いではないがそろそろ帰りたくなってきた。
地道な特訓ゆえに成長しているかが分からない。
それでもシエラは俺を信じて魔法を打ち続けている。
俺はシエラに報いるためにも満足するまで付き合い続ける。
一時間、一時間と時間が過ぎて、やがて日が落ち辺りが暗くなった。
もうすぐ門限というところでようやくその時は来た。
閃光が迸り、俺が付与した防御魔法を貫通し岩が砕け散っていた。
「やったー」
シエラはよほど嬉しかったのか、いつもは見せない喜び方をしている。
「よくやった。」
その後、俺はシエラを転移魔法で寮まで送り届けた。
俺は、そこから歩いて帰ることにする。
転移魔法を使ってもいいが、夜の学院を歩くというのも悪くない。
本来この時間は外出禁止だが、この見つからないように寮に帰るというのも青春の一つだろう。
隣に友人が居ないのが少し残念なとこだが、贅沢は言わない。
俺はこのハラハラ感を満喫するために探知魔法は使わない。
何なら、人間が近づくとオートで発動する感知魔法も切っておく。
これで、俺は探知という面に関しては世界最強ではない。
一般人程度だ。
まずは、誰にも見つからずに、このSクラス専用に寮を抜け出すところからだな。
Sクラスという事もありそこら中に監視の魔道具が設置されている。
ここが一番の難所だろう。
監視の魔道具のセンサーを上手く潜り抜け廊下を進む。
ふと耳を澄ませば足音が聞こえた。
それもこちらに近づいてくる。
すかさず身を縮こませて近くの飾りの裏に隠れる。
どうやら、警備の先生が巡回しているらしい。
先生は油断しているのか探知魔法を発動していない。
探知魔法を使われていたらどうしようもなかったな。
この調子で進んでいく。
何度か警備の先生に見つかりそうになったが、うまく切り抜け、もうそこに出入り口の扉がある。
勝った。と確信したその瞬間、背中を軽くポンと叩かれた感触を感じた。
恐る恐る振り向くとそこには見覚えのない少女が居いた。
「君、何してるの?」
「すみません。友人の家で遊んでいたら下校時間を忘れてしまって。」
俺は、少し無理のある言い訳をした。
「いや、別に怒っているわけじゃないんだけど」
別に相手が起こっているかそうでないかなんてどうでもいい。
報告されるかが問題なのだ。
もし、報告するとか言い出したら、記憶を少しいじらせてもらおう。
危険な魔法だが、俺を見つけてしまった運の悪さを恨んでもらう。
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