第29話 魔剣祭2

勿論、俺の答えは決まっている。


「お断りします」


学園長は断られるのを分かっていたかのように余裕のある表情をしている。


「何故断るか教えてくれるかい?」


「めんどくさいから」


「では、僕が君の願いを一つ聞くという条件でどうかな?」


「いや、いいです。」


学園長の余裕な表情が少しずつ崩れていく。

今回ばかりは何を言われても断る。


「それよりも、魔剣祭は校内戦を勝ち残らなければ参加できないんですよね。俺には無理ですよ」


「僕の見立てだと君なら余裕で勝ち残ると思うのだけどね。」


「買い被りすぎですよ」



そう言って俺はソファーから腰を上げ寮へ帰ろうとする。


しかし、それを阻止する一言を学園長が放った。


「実はノア・ルクレアはSクラス程の実力を持っていると学校中に噂をバラまこうかな?」


学園長は最終手段を使った。

確かに効果抜群だが、俺からの信用が全てなくなると言っても良い一言だ。


「誰が信じると思いますか?」


「信じるか信じないかなんてどうだっていんだよ。疑いがあるだけで君は平穏な学校生活が送れなくなる」


なんて痛いところを突いてくるんだ。

確かに疑われる日々というのは苦しい。

俺は仕方なくもう一度ソファーに腰を掛け交渉の場に戻る。


「そこまでして俺を魔剣祭に出場させたがるのは何故ですか?」


俺がそう言うと学園長は待ってましたと言わんばかりの表情を作り語り出す。


「実は、我が魔法学院と剣士学院はこの世界のトップ学院と呼ばれているんだ。昔は実力が拮抗していて魔剣祭の成績も五分五分だったが最近は剣士学院に軍配が上がってきている。そこで、流れを変えるために君という秘密兵器を投入して流れを変えようとしているのさ。」


そこまで聞いて思った感想はこの一言に尽きる。


「どうでもいい」


思わず口に出てしまった。

まあ、本音だから仕方がない。


「別に俺じゃなくてもランキング1位と2位に頼めばいいじゃないですか?シエラだってやる気みたいですよ」


俺がそう言うと学園長は難しい顔をする。


「確かにランキング1位が参加してくれれば優勝できる可能性は高いが、何せ前にも言った通り気難しい性格でね、参加を断られてしまったよ。まあ、ランキング2位は交渉の末、出場してくれることになったけどね。」


「ちなみに何人出場できるんですか?」


「3人だ」


まあ、そのくらいか。


「前向きに検討してくれるかい?」


「分かりました。では、条件を出します。」


「何でもいいぞ」


「まず、魔剣祭に出場するときに、俺は仮面をつけて出場します。」


これは当たり前の事だ。

ただで、正体をばらすわけにはいかない。


「うん、もちろん防具の着用は自由だから好きにしてくれ」


「あと、俺は校内戦に参加しません」


この条件は俺の身バレ対策でもある。

本戦である魔剣祭に比べ、校内戦は顔を合わせたことのある人間がほぼ全員であることから身バレする可能性が高い。

それに、校内戦の開催場所はおそらく訓練場になる。

あそこは広いが、観客との距離が近い。

観客からは臨場感が伝わってきて良い設計だとは思うが、今回の事に関してはただただ迷惑な造りである。

勘が良い人間であれば間違いなく気づく。



まあ、面倒くさいという理由の方が大きいが、これは言わないでおこう。



この条件もすぐに受け入れられると思ったが以外にも悩んでいるようだ。


「難しいね。でも、何とかしよう」


「難しいとは、普通に学園長の推薦とか適当に理由を付ければいいのでは?」


「それがね、この魔剣祭に出場するために人生を掛けている生徒だってたくさんいるんだ。そんな生徒たちが私の推薦だからという理由で得体のしれない人間を受け入れてくれるとは思えない。それに、さらに厄介なのが教師人だ。教師人も一人一人にお気に入りの生徒がいる。だから、説得するのが難しんだよ」


なるほど。

この魔剣祭に人生を掛けている人間がいるのか。

なら、なおさら俺が出ない方が良いのでは、という考えになってしまった。

まあ、俺も正体をバラされたくないから出場しなければならない。

それに、もし仮に俺が校内戦に出場したら絶対に勝てる。

だから、あまり罪悪感は感じない。



「分かった。何とかしてみよう」


「じゃあ最後に、これで貸し1つという事で出場しましょう」


「それも了解。君に貸しを作るのは少し怖いけど剣士学院に勝てるならそれでもいいよ」




ひと段落話が付き俺は学園長室を後にする。




寮に帰るとレインとロイドの姿がない。

何処に言ったのだろう。

俺は、何となく探知魔法で2人の位置を探ってみた。



訓練場か。

校内戦に出場すると言っていたし訓練でもしているのだろうか。



少し様子を見に行くことにする。




訓練場にはロイド、レインの他にもシエラの姿があった。

シエラは自分の訓練をしながらロイドとレインに魔法を教えている。

何か微笑ましいな。

3人が仲良くなって良かった。

俺のお祭り大作戦が功を奏したのだろう。



3人の邪魔をするのも悪いので観客席に移動し訓練の様子を見ることにする。


ふと、レインの魔法が目に入った。

レインはやはり水魔法のセンスがある。

彼の放つウォーターボールは、なかなかの威力がある。

始めに入試の時に見たウォーターボールとは威力が全く違う。

地道に訓練をしていたことが伺える。


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