第27話 迷子2

俺は空中に浮かぶ魔法(リフト)を使用する。


これなら人混みを気にせず移動できる。

あと花火開始まで3分。

シエラと合流し丘の上まで送り届ける時間はギリギリある。


風圧が周囲に被害を与えないギリギリの速度で移動する。



上から見ると人が大量にいるのが実感できる。


「人がゴミのようだ」


思わずあの有名なセリフを吐いてしまった。



ダメだ、こんなことをしている暇はない。




シエラの真上に到着する。

このままシエラを持ち上げて丘の上に運ぶか。

そう思ったが何やら様子がおかしい。

俺は仕方なく地上に降り人混みに紛れて透明になる魔法(レイス・エンブレイス)を解除する。


「どうした?」

俺が声を掛けるとシエラは少しびっくりしていたが事の経緯を話してくれた。


どうやらシエラにしがみついている小さい女の子が両親とはぐれてしまったらしい。

まあ、俺ですらも迷子になったのだから、こんなに小さい子が迷子になっても仕方がない。

だが、困った。

この子の両親を探すと確実に花火に間に合わなくなってしまう。

見捨てるという選択肢はシエラが取りそうにないな。

そう判断し花火は諦めこの子の両親の捜索に協力することにした。


「君の名前を教えて?」


俺は笑顔で彼女に問いかけた。

しかし、彼女は怯えてしまってシエラの足を盾にして隠れてしまった。

渾身の笑顔だったのに何がいけなかったんだ?

まさか、俺の膨大な魔力を感じたのか?


そんな冗談を脳内で言って自分を落ち着かせる。


「ノア、さすがにその笑顔は小さい子にはホラーだわ」


シエラは呆れた口調でそう告げた。

これも仕方がないことだ。

俺だって幼少期から戦闘しかしてこなかったんだ。

こんな小さな子の相手なんてしたことがない。

ましてや作り笑顔なんて今回が初めてだ。


「大丈夫よ。このお兄さんは怖い人じゃない」


シエラは優しく少女に伝えてくれた。

少女はシエラの足の後ろから出てきて小声で自己紹介をする。


「セリナ」


「じゃあ、セリナの両親の魔力はどんな感じかな?」


俺の質問にセリナは何も返してこない。

それを見ていたシエラはまた呆れている。


「あのね、こんな小さい子に魔力の事なんて分かるわけ無いでしょ。それに、私だってそんな抽象的な質問答えられないわ。」


「そうか?俺がこの子の年齢の時は魔力の質や色、量、形を見ることが出来たぞ」


「ノア、今後は自分を基準にするのはやめた方がいいと思うわ」


シエラのアドバイスを素直に受け止めることにする。

しかし、どうしたものか?

魔力の状態が分からないとなると魔力探知で探すのが不可能だ。

歩いて探すとなると、この人込みだ。数時間かかる可能性がある。

それにセリナの体力が持たない。


俺が困った顔をするとセリナが泣きそうな顔になった。



「最終手段を使うとするか」


「最終手段?」


俺はセリナの目線に立つように膝を地に着ける。


「セリナ、今から起こることは誰にも言わないでくれよ。」


「分かった」



セリナの確認も取れたことで俺とシエラとセリナは人が少ない裏路地へ移動する。


そして2人に透明になる魔法(レイス・エンブレイス)を掛ける。

もちろん自分にも。

その後シエラを背中に乗せる。


「ちょっと、何するのよ」


シエラは暴れているが、彼女程度の筋肉量ならびくともしない。

だが、鬱陶しいな。


「考えがあるから暴れるな」


「分かったわよ」


そして、セリナの腹部を両手でつかみ空を飛ぶ魔法(リフト)を使用する。



「わーー」


セリナは喜んでいるようだ。

子供にとっては空を飛ぶのは夢の一つでもあるからな。

喜んでもらえてるなら何よりだ。

俺はサービスのつもりで一回転してみた。

すると後頭部に衝撃が走った。


「調子に乗らない」


シエラが俺の後頭部を叩いたようだ。

しかもグーで。


だが、下から探すより上から探したほうが見つけやすい。


「セリナ、両親いた?」


「いない」


まあ、そんな簡単に見つかるわけないか。

丘の近くまで飛ぶとロイドとレインは合流していた。

2人の場所まで行きたいが今はセリナの両親を探す方が優先だ。



「あれじゃない?」


シエラが指さした方向に何かを探している素振りを見せる夫婦がいる。


「そう、あれがパパと、ママ」


「了解」



そして俺はセリナを両親の近くまで送り届け魔法を解除した。

そして3人でセリナの両親のところまで行く。

セリナは「パパー、ママー」と言いながら走って両親と合流した。

一件落着か。

その瞬間花火の音が周辺を轟かせた。


「悪いな。4人で見るつもりだったが結局俺と2人で見ることになって」


俺は一言謝罪をする。

4人で花火を見ることが出来なかったのは俺の落ち度だ。


「いいわよ。そんなの。」


「そうか。なら良かった」


「むしろ・・・」


「何か言ったか?」


花火の音が原因でシエラが何を言っているのかが聞き取れない。


「何でもないわよ」


そんなことを言うシエラの頬は少し赤く染まっている。



数百発の花火が終わりを迎え、俺とシエラはロイドとレインのいる丘の上へ向かう事にした。

祭りも終了という事で人が少しずつ減っている。

そこで俺は一つ忘れていたことを思い出した。

収納魔法の中にしまっていたクマのぬいぐるみを取り出す。

レイン、ロイドと買い物に行ったときに魔法射撃で取ったクマのぬいぐるみ。


「シエラ、これ日頃のお礼と今後のお礼」


そう言ってシエラに渡した。

ぬいぐるみを受け取ったシエラはそのぬいぐるみを命よりも大事そうに両手で抱きしめた。


「ありがとう」


喜んでもらえて良かったと一人で安堵する。

その後、無事レイン、ロイドと合流し4人で寮に帰った。

初めて友人と祭りに来たが思ってた以上に良い思い出になった。



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