第26話 迷子

4人で色々な屋台を周り空が暗くなり始めると人が多くなってきた。

もう、歩くスペースがほとんどない。

人の波に押しつぶされそうだ。


とりあえず人が少ない場所に避難するとしよう。

俺はロイド、レイン、シエラにそう伝えようとしたが、3人は居なくなっていた。




これは、、、迷子というやつだな。


だが、大丈夫だ。

俺は世界最強の魔術師。

こういう時の探知魔法だ。



そうして俺は探知魔法を発動する。

「・・・」


人が多すぎて3人の魔力が分からない。


いや、その辺にいる魔術師なら諦めるかもしれないが俺は世界最強の魔術師だ。

俺はさらに集中し3人の魔力を探る。

数メートル先にレインの魔力を察知した。

どうやらレインも迷子になっていたようだ。


俺は持ち前の回避術で人と人との間をスラスラと抜けていきレインの後ろに到着した。

手を伸ばしレインの肩を掴む。


「え?」


レインは驚いたのか肩をビクッとさせて後ろを振り向いた。


「何だ、ノアか」


「悪かったな、俺で。それよりも、少し人が少ない場所に移動しよう。」


「そうだね。それよりもロイドとシエラは?」


「はぐれた。今から見つけに行く。レインはあそこの丘の上で待っていてくれ」


「僕も探すの手伝うよ。」


せっかくの提案だが、俺が一人で探した方が効率がいい。

なんたって俺にはこの後、花火を4人で見るという目標がある。

一度は想像した友人と一緒に花火を見るというイベントがまさに今、実現しそうになっている。

これは、絶対に実現させなければならない。



俺はレインの申し出を丁重に断りロイドとシエラを探しに行く。

再び探知魔法を発動する。

2人とも見つけることが出来たが少し距離がある。



近くにいるロイドから迎えに行くとしよう。

先ほどと同様に人と人との間を器用に潜り抜けロイドの背中に到着する直前、前方から神輿を担いだ集団が場をかき乱した。



なんて迷惑な。

まあ、これもこの祭りの醍醐味らしい。



だが、俺としてはただの時間ロスでしかない。

人混みがかき乱されたせいでロイドとの距離が再び空き、さらには居場所も分からなくなってしまった。



内心舌打ちをしたがイライラしても状況は悪化するだけだ。

心を平穏に保ち再び探知魔法を発動する。

常人であれば、この数の人間がいる中での探知魔法は相当量の魔力を消費し魔力不足になるが俺は大丈夫だ。

あと100回、いや1000回以上探知魔法を発動させられる。



「見つけた」


再びロイドを見つけ、やっとの思いで合流することが出来た。


「ロイド」


「ノアか。探したぜ」


「レインがあの丘の上で待ってるから合流してくれ。」


「了解。ノアはシエラを探すのか?」


「ああ。一人で行けるな?」


「当たり前だろ。子供じゃないんだから」



無事にロイドも探し出すことが出来た。

あとはシエラだけか。

だが、もうすでに花火までの残り時間が5分を切ってしまった。

あの神輿が無ければ少し余裕があったはずだが。



シエラはここからかなり離れた場所にいる。

普通に走っても間に合わない。

それにこの人混みだ。

普通なら確実に間に合わない。

どうするか?



俺の中で2つの策を思いついた。

1つ目の策は転移魔法。

転移先をシエラの近くに設定する。

だが、この案は人が大量にいる祭りで実行すると確実に数名に見られてしまう。

人気がない場所に転移してもそこに人がいる可能性はかなり高い。

よって転移魔法は却下だ。



2つ目の案は空中に飛び、シエラがいる場所までショートカットする方法だ。

これにも欠点があり空中浮遊はあまり普及していない魔法であるためこの魔法を使えるのは軍に所属している魔術師か、闇魔術師と呼ばれる魔術師くらいだ。

よってこの案も却下。



そして俺は一つ革新的な策を思いつく。

2つ目の案である空中に飛びシエラがいる場所まで行く案に俺が独自で開発した透明化出来る魔法を組み合わせれば誰にも見つからず、シエラの場所まですぐに移動できる。



だが、やはりこの策も欠点がある。

先ほど俺が独自で開発した透明化出来る魔法と言ったが実際はまだ開発していない。

つまり今、この時点で俺が開発することになる。



魔法を新しく開発するというのは数名の魔法科学者が何年にもわたり研究することで1つの魔法を開発するのが一般的だが、何しろ俺は世界最強の魔術師だ。

魔法の一つや二つ数秒あれば開発できる。



俺は、脳内で透明化について考える。

透明化に必要な要素は光の屈折。

一般的に光には屈折率というものがある。

その屈折率を本来はあり得ない方向に曲げる。

すなわち負の屈折率にすれば理論上透明化出来るだろう。

俺は負の屈折率を自身に付与するために無属性魔法を駆使し、光の反射を調整する。

脳内で描いた魔法陣がとんでもない大きさになってしまった。

まだまだ改良が必要だな。

だが、目的の透明化出来る魔法を完成することが出来た。

名前はそうだな、レイス・エンブレイスと名付けよう。



早速、人が少ない場所に移動し他人の目線が全て俺から逸れる一瞬でレイス・エンブレイスを発動する。



試しに近くにいる男の前に仁王立ちしてみる。


反応がない。

良し。気づいていなさそうだ。


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