ダメ親への地獄献金

ちびまるフォイ

情けは人のためならず?

「地獄献金に興味がおありですか?」


「いや、興味があるっていうか。話を聞きにきた感じで……」


「承知しました。お名前をうかがっても? ご親族を確認します」


「山田です」


「お待ちを。……ありました、山田様。お父様は現在地獄ですね」


「あ、やっぱり地獄なんですね」


「やっぱり、というと?」


「まあ、ろくでもない父親だったんで、死後は地獄だろうなと思ってました」


「それでもたったひとりのお父様でしょう?

 楽しい思い出も少なからずあったのでは?」


「……」


「で、どうします? 地獄献金しますか?」


「その地獄献金ってなんですか」


「献金すると、地獄から天国にいくことができます。

 ただし、そのお金は存命の人からに限ります」


「天国に……」


父親が危篤状態であったときも、病院へ向かうことはなかった。

ある種それが好き放題していた父への反抗のポーズのつもりだった。


けれど、父親が亡くなってからしばらくしたとき

どうしてあのとき病院へいかなかったのかと悔やまれる。


最後に父親と和解するチャンスでもあった。


父親はろくでもなかったかもしれないが、

親孝行をしていない自分だって良い息子だったとは言えない。



「献金します。父親を天国に移動させてください」


「よろしいのですか?」


「これが私からへの遅くなった親孝行です」


「素敵ですね。では、お金をいただきます」


けして安くない金額を地獄へ献金した。


これが人生ではじめての親孝行だと思った。

きっと空の上で父親も喜んでくれているだろう。



それからしばらくした頃。


地獄献金から連絡を受け、ふたたび窓口へ向かった。


「どういうことですか!? 電話で行ってたことは本当なんです!?」


「ええ、まあ。あなたのお父様なんですが、天国から地獄へ戻されました」


「なんで!?」


「天国でヘヴン・ハラスメントをしたそうです」


「聞いたことない罪状!?」


天国まして地獄の状況をうかがい知ることはできない。

なにをしたかはわからないが、自分の父親ならやりかねないと思った。


「せっかく献金していただいたのに申し訳ございません」


「……もう一度、地獄献金ってできますか?」


「え? 本気ですか? また献金するのですか?」


「言ったでしょう。私の父親はダメ人間なんです。

 いつかこういう日がくるだろうなと思ってました」


「はあ」


「これに懲りて今度こそまっとうな人になるでしょう。

 初めて天国ではしゃいだだけだと信じて献金します」


「ありがとうございます。そのお言葉も含めてご親族へお伝えします」


地獄献金の2回目により父親はふたたび天国へと戻された。


誰にだって失敗はあるし、チャンスを与えるべきだ。

それはたとえろくでもない父親だったとしても。


天国で更生するチャンスを与えて、

いつか自分が死んだとき、まっとうな父親になっていることを願う。




が、数日後にまたまた天国から地獄へと戻されたという。



「……今度は何をやらかしたんです?」



「それがわからないんです。地上の人に対してなにかしたらしいんですが」


「生きてる人間に迷惑かけたんですか!? ひどすぎる!」


「具体的に何をやったのかはまだ確定してないんです。

 これからわかるのかどうか……」


「……地獄に落ちたってことだけで十分ですよ」


「で、今回はどうします?」


「この期に及んで追加で献金するわけないでしょう!?」

「ですよね」


「私は父親に対して更生するチャンスを与えた。

 でも、うちのバカ親はそれをふいにした。自業自得ですよ」


「では、今回は献金しないということで」


「当然です。地獄で後悔していればいい。

 地上の人間へ何したかわかりませんが、

 そんなひどいことするやつは地獄がお似合いです」


「手厳しい……」


「身内だからこそです」


さすがに今回の件は100年の愛情も冷めるほどで、

すっかり親に死後で楽させてあげたい気持ちもなくなった。


むしろ積極的に地獄で苦しんでほしいとまで思った。


死んで自分が罰をうけるならまだしも、

地上の人間に対してしでかすなんてもってのほかだ。


「けっ。クソオヤジめ。せいぜい地獄でもがき苦しめばいい」


そう言って地面につば吐いたときだった。


ふいに見上げた空からレンガブロックが猛スピードで降ってきた。

とても避けられない。



ガツッ。



はげしい衝撃を頭に受けて、そのまま倒れてしまった。


地面には額から流れる血が広がる。


だんだんと意識も遠くなっていった……。




ちょうどその頃、未確定だった罪状が確定した。

それは父親が二回目の地獄送りとなった理由だった。


「えっと……? 

 献金をしてくれなかった息子にキレて、

 天国からレンガブロックを投げつけたことにより地獄ゆき……」


職員は地獄送りの名簿をそっと閉じた。

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