第25話 煙草

無情にも時は流れる。


年が明け、みんなそれぞれ

いつも通りの生活に戻る。




私は余計な事を考えないように、

たくさんの“忙しい”を詰め込んだ。


PTAの役員にも立候補し、

バレーボールチームの保護者代表にもなった。

とにかく忙しく忙しく…


忙しくしていれば、落ち込んでいる暇もない。


次から次へとやる事があれば、

他の事を考える余裕もない。


昼の仕事

夜のスナック

家事

PTA

保護者代表


子供3人のチームも大忙しで、

私一人ではキャパは超えているけれど、

このくらいの忙しさが、今の私にはちょうどいい。






松山さんの一周忌前に、お墓参りへ行った。

松山さんが亡くなって1年…


去年だけで、大切な人が2人も亡くなったんだ


ポッカリ穴が開いた私の頭と心


空には青空が広がっている。


大袈裟ではなく、ユウの事は1日足りとも忘れた事はない。


そんなユウのお墓はまだ無いのだが、

4月に入ってすぐ、ユウのお母さんから連絡が来た。


ユウの納骨を5月にするから、みんなで来てほしいとの事だった。

すぐみんなのグループラインに連絡。

しかし私は行かない選択をした。


やっぱりどうしても、ユウのお骨を見たくなかった。


そんな私に、みんなは

意地張ってないで来い

と言う。


ナナも私に呆れている。

そんなんじゃユウが悲しむと。



私はどうしても

どうしても嫌で、納骨の日は予定を入れた。


ごめんねユウ

どうしても嫌なんだ。


私はあの日の

眠っていたユウの姿のままでいたいの。














納骨後、

仲間たちから無事に終わったよと連絡が入る。



その日の夜、

私はヒロに車を出してもらい、ユウのお墓へ向かった。


お寺までの道は狭く、街頭もなかったので

かなり道に迷った。


ようやくお寺にたどり着いたが、

たくさんあるお墓の中からユウを見つけ出すまでは、そんなに時間はかからなかった。


手には黄色い花とオリオンビールが2本


ユウが私の家に忘れていった煙草も持っていった。


私の中でユウは向日葵のイメージ


でも向日葵なんて売ってなかった。

だから向日葵に似た、黄色い花を見つけて

ユウにピッタリだと思ってその花にした。


プシュっとオリオンビールの缶を開け、

『ユウ、久しぶり』

グビッと飲む。


ユウはオリオンビールが大好きだった。

でも稼ぎがないからと、いつも安いビールばかり飲んでいた。

いつか一緒に沖縄のオリオンビール飲みにいこうねって言ってたのに、まだ行けてないじゃん。


私は真っ暗な人のいない墓地で、一人ビールを飲みながらユウのお墓に向かって話しかけていた。


『完全にやばい人だって。俺怖いんだけどーーー』

ヒロは怖がっていた。


『大丈夫だよ。怖くないよ!でも、見つかったら怒られるかな?』

私はユウのお墓だから怖くない。


『まじ怖いってーーーー』

ヒロは私にベッタリくっついていた。


私はユウの煙草に火をつける。

これまたユウが吸っていた煙草は

“わかば”


これ、今でもあるのだろうか?(笑)


それを見たヒロが

『リカ…オッサンじゃんそれ(笑)』

と笑う。


『もしかして引いてる?』


『いや、引いてはいないけど…オッサン…』


だよなー。

ビール片手に、わかばを吸う。

そして場所は夜のお墓。

なんつーシュチュエーションなのだろう。


ぶっちゃけ、あまりヒロには見られたくない場面だったが、納骨は行かないと言い張ってしまったので、頼めるのはヒロしかいなかった。

『ごめんね、オッサンに付き合わせちゃって。』


『いいよ、俺もユウさんに挨拶したかったし。

リカのオッサン姿も見れたし(笑)』


『もー。まだヒロに会わせてなかったのにーユウのバカー!』

お墓にむかって話しかける。


『何とか言ってよユウー』

返事はないのに、私はめげない。


疲れも溜まっていたので、缶ビール数口で酔も回ってくる。

自分でも気づかないうちに涙が出ていた。


『たばこ…まずい』

グスグス泣く私を、ヒロは優しく撫でてくれた。


『ヒロ、ごめんね。こんなヤバイやつ、早く捨てていいんだよ』

と自分で言っといて更に泣けた。


『逆にヤバイやつだから捨てれないんじゃん』

ヒロは笑った。


もっと早くユウに紹介すれば良かった。


今日、

今、ヒロがいてくれて本当に良かった。



忘れちゃいけないのに、忘れたい

忘れたいのに、忘れられない

本当に進めない私

ユウの事も

ヒロの事も

何もかもが嫌だった

何もかもやめたかった

糸が切れたら

本当に何もかもやめてしまいそうだった








ヒロのバレーボールの試合をこっそり見に行った。

みんなのところにおいでよと言われたが、

若い子しかいない中へ行くのは気が引けた。


こういう時、きっと以前の私なら、なんの躊躇いもなく行っていたはずだ。

スナックで働き始めてからというもの、

なぜか後ろめたいものが付き纏い、

私の芯はなくなっていた。

自信も、一緒に。


バレーボールをしているヒロはまたいつもと違ってイケメンすぎる。

学校の子であると思われる女の子たちも応援に来ていて、ヒロが決めるたびにキャーキャー言っていた。

私も心の中でキャーキャー言っている。

ベンチに上がってくると、女の子たちに囲まれるヒロ。

私も今すぐそこへ行きたかった。

私は会場を後にし、外で煙草を吸う。




煙草は離婚してからやめていた。

節約の為に。

でもユウがいなくなったあの日から、

隙間を埋めるように煙草を吸うようになってしまった。



ふぅ…



私、何やってるんだろう…


後ろめたい自分も

コソコソしている自分も

前に進めない自分も


ほんと何してるんだろう。



私は自分からヒロへは連絡しないと

この時決めた。


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