第24話 解放

『私、お腹すいた』


会場を離れた瞬間、

今さっきまでの事が無かったかのように

“無”の世界に陥った


県外へ帰らなきゃいけない仲間もいたので

もうこのままみんな帰ると思っていたが

みんなでご飯へ行こうとなった


昼間の時間

青空

喪服でゾロゾロファミレスに入る


ここ5日間

全くと言っていいほど食べていなかった私は

めちゃくちゃ注文してやった


『ねぇ梨花!そんなに食べれるの?』


『うん!!お腹すいた!!』

みんなヤレヤレという表情


すごくお腹がすいていたのと、

とにかく何かを口にしていないと、

それは喋るも食べるも

泣き続けそうな状態だったからだ


やばい。

めっちゃ食べれると思ったのに

ぜんぜん食えん。


ほら見ろと言わんばかりに、

みんなが私のをつまんでくれる。


久しぶりに集まったみんなとは

ユウの思い出話で盛り上がった。


1番の年長者が言う


『しんみりしてたらさ、ユウが心配しちゃうじゃん。とくに梨花ね!嫌だけど…悲しいけど、ユウは開放されたんだよ。苦しみから抜け出せたんだ…』


『と、思ってさ!!私たちはシッカリしなきゃね!あいつ、仲間想いだから、ねー。ほんとさぁ…』


そうだね。

ユウはずっと苦しんでいた。

自分に。

それは私も、誰にもどうにも出来なかった。

ユウは自分でケリをつけたんだ。


でも他に方法はなかったのか?!

いつか説教するんだユウに。


みんな悲しいはずなのに、わざと暗くならないようにもっていってくれる、この仲間たちが大好きだ。


私たちは日が暮れるまで語り合った。


子供たちが帰ってくる時間


帰らなきゃ。


みんなまたここからバラバラになる。


年に2回か1回しか集まれない仲間だけど、

いつ会っても本当に変わらない。


変わったのは…

一人いなくなってしまった事だ。


しょんぼりする私に

『梨花!!大丈夫だよ、ユウならいるよ。ほら!』

スマホにはユウの写真


『ほんとだね!』


『ユウって絶対に集まるときは来てたじゃん!

絶対来てるって今も!なー!ユウ!』


みんなでスマホの中のユウに話しかける。



クリスマスは、予定通りナナとネネを家に呼んで、静かにクリスマスを過ごした。

ユウも写真と共に魂も参加したと思っている。


ヒロは…

ヒロには悪いが、とても盛大にやる事は出来ず、

呼ばなかった。

ヒロもわかってくれて、落ち着いたら会おうと言ってくれた。



あれから毎日、誰かしらが家に来てくれる。

ナナは毎日の様に来るが、年に何回かしか会わなかった仲間たちまで、時間を作って来てくれたり、仕事帰りにわざわざ寄ってくれたり…


『私ユウの後を追ったりしないよ?ユウに怒られるもん』


みんな心配してるのだと思った。


『誰が梨花の心配してるなんて言った?(笑)

会いたいと思ったから来てるんだけど』


だって。

みんな寂しいんだ。


『会いたい人には会いに行かなきゃね!

ここに来れば誰かしらに会えるしね』

ニヤリと笑う。




ユウのお葬式から1週間後

忘年会をした。


再び帰省した仲間がいる間に

新年会もした。


ユウも一緒に。






今はどんな友達よりも、この仲間たちと居たかった。



以前ユウがSNSに投稿していた

“探してみると、自分が笑ってる写真てなかなかないもんだね。てか自分の写真撮らないんだけどね。笑ってる写真あったらちょうだい!

10年後も20年後も、みんなで笑っていられますように”

この投稿をみんなでメンションして

写真を送りまくった。

ユウの笑ってる写真

いっぱいあるよ。

ユウの笑顔は本当に可愛くて

花に例えると向日葵みたいだった。





昼の仕事を休んだままでは生活が出来ないので

仕事へも復帰した。

嘘の理由が思いつかず、正直に話してしまった私にアイコさんが

『友達がしんだくらいで仕事休むなんて、家族ならわかるけどねぇ。それってアリなの?』


頭に血が登るのをぐっと堪え、仕事をした。




社会人というのは、そういうものなのかもしれない…

大人ならそうなのかもしれない



だったら私は子供でいい。


こんな母親でごめんね。子供たち。



止まってしまうと胸が苦しくなり、心臓の音と共に宙へ浮いてしまう。

とにかく何かを

何かをしていないと発狂しそうだった。

とにかく忙しく、忙しく、暇の無いように。

暇があると余計な事を考えてしまうから

立ち止まらない様に。









忙しいを理由に会おうとしなかった自分に本当に嫌になる。

いつでも会えると思っていた自分が嫌になる。


みんなは大人なのか、ユウは自分の病気に苦しんでいて、そこからやっと解放されたんだと、優しい気持ちでユウの死を受け入れている。

前に進もうとしている。ユウの分も。


ずっと苦しかったユウは

やっと前に進んだんだ





私は…




なぜあの時、連絡しなかったのか

いつでも私を心配してくれてたユウに

自分の事でいっぱいいっぱいだった

なんて自分勝手なの

私はバカだから

すぐ行動してしまうから

ユウは私の事を思って心配させずにいたんだろう

あれが虫の知らせってやつだったのか

何もかも絶望から抜け出せずにいた。






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