第23話 12月21日 晴れ

その夜はスナックの仕事が入っていた。


ナナに休めと言われたが、

いま家に帰って子供たちの顔を見れないと思ったから、行くと言った。


その日は、止まってしまうともうダメだと

飲んで飲んで飲んで

ぐっすり眠れるように

たくさん飲んだ






日曜日

長女のバレーボールの大会だった


ユウと特に仲の良かった長女には

まだ何も知らせてない


私は何もかも無かったかのように

大きな声で応援した


一回黙ってしまうと

涙で溺れてしまいそうだったから

とにかく大きな声で応援して

たくさん笑った


笑っていたと思う


正直すぎるくらいわかりやすい私だから

誰にも気づかれないように。











月曜日

昼の仕事へ出勤する

『出勤したばかりでごめんなさい。明日と明後日、お休みをください。』


『いいけど、どうしたの?』


『明日…明日は…』

また過呼吸だ。

だめ。

過呼吸なんて起こしている暇はない。

ユウに…

ユウに会いにいかなきゃいけないの。



何も言わず泣き崩れる私にボス主婦は優しく

今日も帰りなさいと言ってくれた。



『あれー?ママ今日からお仕事じゃなかったの?』

長女が帰ってきた。


『あのね、明日と明後日は学校もお休みするよ。ユウがね…ユウちゃんとお別れしにいくよ』

5年生の長女は察したのか、ぎゅっと私を抱きしめる。

私は何も言わずに泣いた。

とにかく泣いた。

子供たちに伝えるべきか、そうでないのか

でもユウは子供たちにとっても家族のような存在だった

ちゃんと会わせないと

逃げちゃだめだ




12月20日 火曜日


ユウのお通夜には、たくさんの仲間が駆けつけた。

会場には、SUPER BUTTER DOGの

サヨナラCOLORが流れ、

入り口にはたくさんの思い出の品が飾られていた。

何冊ものアルバムがあったので手に取る。

今は写真というよりもスマホで撮影する。

最近の写真はなく、一緒に働いていた頃のものが多かった。

みんな笑っている。

楽しそうに。

写真に写っているみんなも今一緒にいるけど、

誰も笑ってないよユウ。

みんな泣いてる。

ユウもいないし

みんな泣いてるよ。



チカも泣いている。

タケルも…



久しぶりに全員集まったよ。

ユウ、早くおいでよ


久しぶりの全員集合が

ユウのお通夜だなんて

哀しすぎるよ






子供たちは棺に入ったユウを見て唖然としていた

実感がなかったのだろう。

『ユウちゃんねんねしてる』

次女の言葉に、長女が泣く。

長女は昨日書いたであろうユウへの手紙を

白い花と一緒に棺に入れた




私は何度もユウのアルバムを見る


変な写真ばかりで笑えてきた


楽しかったね


本当に楽しかったよ


大好きだよユウ


涙で目が見えないのに私

笑ってるよ

ユウも一緒に笑おうよ



『梨花ちゃん、ありがとうね。ごめんね。』

ユウのお母さんはしっかりとしていて、

涙を見せる事なく、みんなに挨拶していた。


食べてないでしょと、お斎に呼ばれ

席につく。

何も食べていないのにお腹もすかない。

ふと振り返ると、ユウのお母さんが

ユウの遺影に向かって話しかけていた。


お母さんが1番辛いはずなのに。















ユウは自死だった。

自宅での

私も何度も行った部屋

自宅での自死は

事件性がないか、事情聴取をされる

警察はえげつない





お母さんは私たちに

涙は見せなかった。










12月21日 水曜日


食事も喉を通らず、眠気もこないまま

私は斎場へ向かった


今日が最後


ユウと会うのは今日が最後




早めに斎場へ行き

ユウの隣でじっと

その時を待った




いつも寝相が悪くて

いびきもかいていたのに

なんて静かに綺麗に寝てるの?

ズルくない?



ねぇユウ

この前、長女の試合でね、すごく頑張ってたんだよ


ねぇユウ

食いしん坊のこの私が

お腹も空かないんだけど


ねぇユウ

もうすぐクリスマスだよ


ねぇユウ


ねぇ




涙で周りが見えない

何も聞こえない

ユウと過ごした日々を思い出した



ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ














え?




今はお経中

みんなが私を見る




(プッ)

(ププププププ)

(やめてよ梨花)

(こんな時になんだ?梨花らしいな)

(ちゃんと食べなきゃダメだよ)


(ごめん)


みんなが泣きながら笑っていた


ユウ

ごめん

こんな時にまで笑神様降りてきたよ


いつもこうやって笑ってたよね




まさかユウが笑神様呼んだ?

泣いてんじゃねーよって


でもね、そんな笑いは一瞬で

すぐに哀しさが襲ってきたよ




ユウのお母さんが

火葬場まで一緒においでと言ってくれたが

そんな身内の場へは行けないとお断りした


でも本当は

お骨になったユウを見たくなかった

それが本音







今まで、

ひいおばあちゃんが老衰で亡くなった。

おじいちゃんが病気で亡くなった。

ひいおばあちゃんも、おじいちゃんも大好きで、とても悲しかったのをよく覚えている。

人が亡くなった哀しみに大きいも小さいも、

そんなの比べるものなんて何一つないけれど、

ユウの死は、とても苦しかった。









ありがとうユウ。またね。

と声をかけた







葬儀場でユウを見送る


もう自分でもわけがわからなかった

とにかく“嫌だ”しか口から出てこない

嫌だユウ

ユウ嫌だ

みんなが私を宥める

私は泣き叫ぶ

諦めきれない感情を

とにかく叫んだ









ユウ


ユウ



ユウ









ありがとうユウ


ユウは私の中で生きているよ


ずっと生き続ける


だってちゃんと聞こえるもん


ユウが私を呼ぶ声


笑顔と笑い声


口癖の『いい加減にして』


今でも忘れる事はない







空はとても晴れていて

12月なのに温かかった






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