第18話 DAYDREAM

この夏、中学生になった息子の部活は多忙を極めた。

毎日遅くまでの練習、土日も休みは無い。

県外遠征もあれば、炊き出しもある。

子供だけでなく、親も大忙しだった。


7月から9月にかけて、遠征だらけでお金もたくさん必要となり、スナックの仕事も増やした。

息子のお弁当も、必ず手作りでないといけない為、朝も早くに起きる。

たまには買い弁もしたいと思ったが、

寝坊してしまった時にコンビニ弁当を買って行ったら、みんなが手作り弁当を食べる中で一人だけコンビニ弁当で、いたたまれなくなり、

絶対に手作り弁当を作ると決めた。


昼の仕事

夕飯を作ってスナックへ出勤

2時頃帰宅

6時起床でお弁当作り


土日はもっと早くに起きてお弁当を作る。

お金の為に、昼の仕事も休まず働いた。


そして、長女と次女もジュニアのクラブチームがある為、そちらも中々の忙しさだった。

バレーボールは季節も天候も関係なく、年中無休。

でも頑張っている子供たちの試合は見たいので、練習試合であっても、必ず見に行っていて、毎週末は中学校とジュニアチームの往復だった。


そうなると、ヒロと会う時間も減る。


そのかわり、ヒロは川辺さんについてスナックへ来てくれる事が増えた。

ヒロがスナックへ来ると、ママがヒロにべったりなので、私は嫌な気持ちしかない。

川辺さんがさり気なく、ヒロの元に私を誘導してくれるが、ママの邪魔が入るばかりで中々近づけなかった。


スナック終わりは、いつもヒロが駐車場まで送ってくれる。

もっと一緒にいたいと言っても、体が心配だから早く帰って寝ろと言われた。




ナナとは、あれから会ってもいないし、連絡も取ってない。


ユウとは連絡は取っているが…

ユウとタケルの関係はチカにバレていて、

チカと2人で話したらしい。

チカは自分がタケルと結婚した事を後悔したと言ったらしい。

タケルはユウが好きなんだと。

でもチカもタケルが好きで、ユウにごめんねと言ってきたそう…


ユウは自分を責めて、体調を崩した。

私も忙しかったので、ユウとは電話やラインで話を聞いてあげる事しか出来なかった。

外へ出ると動悸がして過呼吸も起こしやすくなっていて、仕事もずっと休んでいるらしい。

時間を作って会いに行くねと言ったが、

時間が出来たらヒロの所へ行けと、

ユウは言った。


お金も稼がないといけない。

子供たちの試合も見たい。

ユウも心配。

ナナも気がかり。

ヒロに会いたい。

それに家事もあって、多忙を極めていた。





ユウとタケルの一件で、夏に集まろうと言っていたのもナシになった。

ナナと再会したら、前みたいにいつも通りに戻れるかもしれないと思っていたが、その機会もなくなった。

自分のせいだと、ユウはまた自分を責めた。





お盆はユックリできると思っていると、

お盆なのに息子の練習試合追加のお知らせが来る。

お盆くらい休ませてくれーと思ったが、手紙を見ると、それは大学生との練習試合だった。


これって…ヒロの大学だ。


でもヒロがやってるバレーは社会人チームだから関係ないか。


ヒロに話すと、やっぱり部活には入ってなかったので、その練習試合にヒロがいるわけではなかった。

『大学なら見に行ってもおかしくないよね。

行こうかな俺も!』


それで会えると喜んだわけではない。


息子もいる。

他の保護者もいる。

さすがにヒロの事は…

とはヒロには言えなかったが、ヒロは話しかけないから安心してと言った。




練習試合当日。

私は保護者の観覧席に座っていた。


すると反対側にヒロを見つけた。

今すぐあっちに行きたいよーと思いながら、

練習試合は始まった。


“息子くん、どの子?”

ヒロからラインが来る。


“当ててみてー!”


“ぜんぜんわからん”


“レフトだよ!”


“わかった!!梨花に似てるな!

助走はもっと貯めた方がいいね!

俺が教えてぇ”


うん。ヒロから教えてもらいたい。

それができたら、どれだけ嬉しいか。

嬉しいのは私だけか…



すると、反対側に座っているヒロの元へ、

女の子が話しかけて隣に座った。


誰だろう…

大学の子だよね…


会話が聞こえる距離ではないが、笑って楽しそうだ。


私はなるべく見ないように、試合に集中した。


でも気になって気になって、年甲斐もなくヤキモチを焼いた。


やっぱり、若い子の方がお似合いだよな…


急に虚しくなる。


私がもっと若かったら…

今、私がヒロを紹介したら、

周りの保護者はどう思うだろう。

子供たちは、どう思うだろう。

ヒロの周りの大学生たちは、どう思うだろう。

子供の事、ヒロの事、自分の事、

いろいろ考えると、私は言えないよ。

ヒロは言いたいと言うけれど、

私は言えない。



寝不足すぎたのと、目の前で女の子と楽しそうに話すヒロを見たくなくて、

私は車へ行った。


エンジンをかけると、これまたちょうどいい曲が流れる。


ふふっと笑い。

私は目を閉じた。







♪清らかなままで

いられない都会に

夢のように叫びは

届かないままで


蜃気楼の

真ん中で

いつか汗ばむ体を包んで

暑い風が

1人きりの

あたしをおいてく


道端の花を

握りしめたまま

壊れてく心

どうか泣かないで

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