第17話 夕焼けは夏の始まり

私は松山さんの死を受け入れられずにいた。


初めてのスナックデビュー

力を貸してくれた松山さん

いつでも応援してくれて

協力してくれた

スナックの女としての

育ての親

恋ではないけれど、本当に大好きだった

私はたくさん松山さんからもらったものがあるけれど、

私は松山さんに何もあげれていない




ヒロは落ち着いたら連絡してと、そっとしておいてくれた。




落ち込んでいる私の元へ、ユウとナナが来てくれた。

ヒロとの事があってから、ナナは子供たちも遊ぶのに会っていたが、ユウに会う回数は減り、近況報告は3人のグループラインで行っていた。

久しぶりの再会に、少し元気をもらえた。

大騒ぎをして疲れた子供たちが眠った後も、私たちは眠らずに話し続けた。

私はヒロと松山さんの話、

ナナは不倫の彼氏の話、

ユウは…………


なんとタケルとの話だった。


去年の10月にみんなで集まったっきりだが、

ユウとタケルは2人で連絡を取り合い、何度か2人で会っているらしい。

『何もないんだけど、黙っててごめん。』

と言うユウに、ナナが怒り出す。


『それってチカは知らないんでしょ?何もなくても、そんなの不倫じゃん!!お互い不倫じゃん!!ダメだってそれは!!』


ユウはやっぱりタケルが忘れられず、旦那ともうまくいってない事もあり、タケルが1番の支えで、タケルがいると体調も良いそう。

でも、だからってコソコソ会っているのは、いつかきっとチカにも知られてしまうのではないか、

もしかすると、チカも知っているかもしれない。


『よりによってなんでタケルなの?チカだって仲間じゃん!!仲間の旦那に手出して不倫とか、ありえないんだけど!見損なった!!』


怒るナナに対し、ユウも反論する。


『自分だって不倫してるでしょ!なんで私ばっかりに言うの?!ナナだって不倫じゃん!どんな理由があっても不倫じゃん!!』


言い合いになる2人に、

『やめてよ!落ち着いて話そう!!ほら!またユウ具合悪くなっちゃうよ』


『もういい。寝るわ。』

と、不貞腐れて寝るナナ。


ユウは体調を崩す事はなかったが、

2人の仲は険悪だった。




次の日、朝早くにユウは帰っていった。

昨日はごめんねと、私にだけラインをよこし、

落ち着いたらまた集まろうと返信をした。


起きてきたナナは、まだ怒っている様だったが、

ユウの事も、チカの事も心配していた。

そしてその日、彼氏に会うからお願いしたいと、子供を私の家に預けて出かけた。

小さい頃から一緒にいるので、子供たちも仲良く遊んでいるし、私も一人増えたところで苦はない。

今までも協力してもらったし、子供を預かるくらい何てこと無かった。

だがしかし、最近は子供を私に預けて出掛ける事が多い。

私が気になるのは、ナナの子供ネネが、寂しそうな顔をする事だった。


ある日、私も夜にスナックが入っていたが、子供を預かってほしいと頼まれ、ばーちゃんが見てくれる事になった。

ばーちゃんはナナもネネも昔から知っているので、いいよー行っておいでーと言ってくれた。


だが後日、ばーちゃんが私に言ってきた。

『ネネちゃん、ママの彼が家に来て、一緒に寝るのが嫌なんだって。この前言ってたわ。』

それを聞いた時は、ネネが可哀想に思った。

私の方がばーちゃんより一緒にいるのに、私じゃなくて、ばーちゃんに話したネネが切なかった。

ネネを預かると、私の子供は私に甘えてくるけど、ネネは甘えてこない。おいでと言っても来ない。

ネネもママに甘えたそうに、寂しそうな顔をする。

これは良くないのではないか…


私はナナに話す事にした。


するとナナは、ビックリ発言をした。

なんと、今まで付き合っていた不倫の彼とは別れ、急に出てきた私の知らない人と結婚すると言うのだ。

だからネネにも父親が出来るから大丈夫だと。


わけがわからず、不倫彼氏とはどうなったのか問いただすと、

『離婚するって言ってなかなかしないし、ケチなんだよねーすごく!しかもさ、自分の子供のお古をネネにくれるんだよ?ひどくない?』


『シンヤはね、お金も持ってるし、家も買ってくれるって!だから結婚しようと思って!』


シンヤという人物の存在は聞いてはいた。

だがしかし、今まで3年ほど付き合ってきた不倫彼氏に、さんざんワガママを言ってきたのはナナだ。

家庭もあって、高給取りでは無いらしい不倫彼氏が、ナナに使えるお金はあまり無いだろう。

それでも不倫彼氏は頑張ってナナに尽くしていたと思う。

不倫は良くないけど、ナナを悲しませない様に頑張っていたのは伝わっていた。

それなのに、アッサリ捨てられ、すぐに他の男と結婚するなんて、さすがに不倫彼氏が可哀想に思えた。


それに、不倫彼氏とママが一緒に寝るのが嫌だとネネは言っていたのに、また違う男が来たら、ネネはもっと悲しい思いをするのではないか。


『あ!ねえねえ、来週に会社の飲み会があって、行かなきゃなんだけど、またネネお願いできる?』


ネネの気持ちは考えないのか?とイラッとし、

『ネネは寂しがってるよ?うちで預かるのはいいけど、その新しい旦那さんになる人はネネを見ててくれないの?』

と言ってしまい、後悔した。

ネネを、知らないシンヤという男に預けるなんて、心配で仕方ない。でも結婚するという事は、父親の役目も果たさないといけないわけで、私に子供を預けるのも違うのではないかと思った。


『新しい旦那じゃなくて、シンヤって言ったじゃん。梨花にそんな風に言われると思わなかった。』


怒るところはソコなのか?

私は呆れて口を出す。

『そのシンヤさんはネネをちゃんと可愛がってくれるの?それに、ちゃんと彼には話したの?さすがに彼が不憫だわ。悪いけど、その結婚を御祝いできる余裕ない。』


自分の事しか考えていないナナに腹が立った。


『なんでそこまで言われなきゃいけないの?

元彼なんてもう関係ないじゃん!

梨花ならわかってくれると思ったのに。もういいや。』


確かに、ナナの人生だから、私が口出しする事ではないのはわかっている。

でも母親なんだよ?

母親にも人生はあるけど、ネネは?

ネネの気持ちは?


そう考えながら、自分の事も思った。

ヒロは子供たちに会いたがっている。

でも子供たちは、やたらと男の人を警戒するので、会わせないでいる。

特に長男が選抜選手に選ばれているので、メンタル面の負担はかけたくなかった。

一歩間違えれば、私も子供たちに同じ思いをさせてしまうんだ…と。



この出来事を、ユウにも電話で話した。

ユウもナナとネネを心配したが、まだ2人は、あれから連絡を取ってないらしい。





午後からヒロと会い、この出来事を話した。

『お疲れ。いろんな事があったね。

俺にはよくわからない世界だな…。』



と、黙って聞いてくれた。


『もうやだーーーーーーーー』

夕焼けが落ちそうな海に叫ぶ。






♪夕焼けは夏の始まり

スカートに咲く向日葵

雨に打たれて

花びら染めて

まばゆい光集めて


さよならは言わないでね

願いはひとつだけ

夏を待ってる


あたしがもし咲いたら

君の手で照らして

あたしがもし泣いたら

君の唄で空を青くさせて


空には

今でも

ひとつだけ

いつでも

すべてが

恋しくて


ゆれるわ






松山さんと会ったのも、夏の始まりだった。


ユウとナナと出会ったのも、夏の始まりだった。






『もうすぐ子供たちの練習が終わるから帰るね。』


ヒロとバイバイして、

夕焼けに背中を押されながら

私は母親に戻る。




♪空には

今でも

ひとつだけ

いつでも

全ては

やさしくて

今でも

見えるよ

ひとつだけ

ゆれるわ

ゆれるわ

ゆれるわ




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