第16話 楽と落
クリスマスと年末年始は毎年の通り家で子供たちと過ごす。
ヒロは無理やり私に家を出てこいとは言わないし、子供たち優先でいいと言ってくれる。
俺は友達と過ごすから、梨花は子供たちと過ごしなと理解があった。
『浮気しないでね。付き合ってないけど』
私はヒロがいつでも他にいい人ができたら、そっちに行けるように私は彼女ではないと言い張った。
そのくせに、本当にイケメンだからモテモテだよなと不安にもなった。
『いつまでそんな意地っ張りなの?これじゃただの都合のいい女じゃん。早く彼女になれよー。』
とヒロは駄々をこねた。
スナックでは毎回ボーナスが貰えるほどの人気も定着し、
子供たちへのクリスマスプレゼントも難無く買ってあげられた。
お正月も、去年よりは豪華なものを食卓に並べた。
去年と同様に、クリスマスはスナックをお休みする。
『今年も休むの?毎年クリスマスは松山さんも来るし、1万円のケーキ買ってきてくれるんだよ!』
とママに言われたが、その1日で稼ぐお金より、
私は子供たちの方が大切だ。
それにしても1万円のケーキってどんなんだろう?
それは気になる。
松山さんは事情を知っているので、クリスマスは休みだろ?と、前週にクリスマスプレゼントをくれた。
これまたお高そうな赤いチェックのマフラーだった。
『ふわっふわだー!大切にしますね!ありがとうございます!』
『ユキは赤が似合うな!それにしても、お前ほんとに恋してるだろ!見ればわかるぞー!』
自分ではわからないが、周りからはわかるらしい。
幸せオーラ?
フェロモン?
何なんだろう?
ヒロに恋をしてから、やたらとモテる。
急にやってきた30代モテ期(笑)
ママからも、幸せそうにしやがってと、今だに嫌味を言われる。
あれからアイコさんとは普通に戻った。
あの夜にアイコさんから
“田中ちゃんは私のこと嫌いみたいだけど、私は田中ちゃんのこと好きだからね”
なんてラインが入っていて呆れた。
つくづく可哀想な人だなと思って、
酔っててごめんなさいと言って、
何事も無かったかの様に普通に接している私のメンタルも、恋によって強くなったもんだ!
年が明けて、変わったことが2つあった。
1つは、平日の昼間は全部仕事を入れていたが休みの日を増やし、昼間にもヒロと会う様になった。
昼間はスナックへ行く時の様な格好も、厚化粧もしない。
スッピンの方が好きだとヒロは言ってくれるので、アイメイクは全くしないし、髪の毛も巻かない。
昼間は映画に行ったり、水族館に行ったり、行き先が決まらないと、ひたすら歌いながらドライブをした。
ヒロの友達にも何度か遭遇した事があった。
デートか?とニヤニヤ聞いてくる友達に、ヒロは何も言わず笑って返す。
女友達に遭遇した時は、私は咄嗟に隠れてしまった。
やっぱり若い子は若い。32歳の私とはぜんぜん違う。
急に自分がオバサンに思えて、ヒロと並んでいるのが恥ずかしくなったのだ。
『隠れなくていいのに。』
ってヒロは言うけど、
『ヒロに悪い噂が流れないようにね。。。彼女できなくなったら困るじゃん!』
『じゃー早く彼女だって認めろって!』
と、これがいつものやりとりだった。
もう1つの変わったことは、
松山さんがスナックに来なくなった。
毎週の様に来ていた松山さん。
連絡をしても、忙しいから行けないとの事だった。
2月のバレンタインも、松山さんにはチョコとネクタイを用意して待っていたが来なかった。
嫌われちゃったかな…
松山さんと最後に会ったのは、クリスマスの1週間前。
飽きられたと思い、連絡するのをやめた。
3月も松山さんはスナックに来ていない。
ママも、ぜんぜん松山さん来ないけど何かあったのか、連絡してるのか、と聞かれる。
たまに連絡しても、返信すら返ってこない事が多くなっていた。
本当に嫌われちゃったのかなと思っていた時、
私の家の住所を教えろと、急に松山さんから連絡が来た。
住所?
いくらなんでも、さすがにそれは少し怖かった。
何でか聞くと、送りたいものがあるとの事で、
直接会えないのかと聞くと、忙しくて会えないとの事だった。
『悪用しないから頼む。どうしても忙しくて、生物だから早く届けたいんだ』
と言われ、私は家の住所を教えてしまった。
2日後、現金書留が送られてきた。
中には10万円と、
“ユキの子供、中学生になるだろ?何かの足しにしろ。御祝いだ。“
と、プリントされた紙が入っていた。
何かの脅迫状みたいだよ(笑)と、御礼の電話をかけたが、松山さんは電話に出なかった。
メールをしても返信はない。
差出人は松山さんの会社になっていて、どうしても御礼が言いたかったので会社にも電話してみたが不在だった。
その後、松山さんとは一切の連絡が途絶えてしまった。
それから6月。
松山さんが亡くなったとママから聞かされた。
膵臓がんだった。
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