第12話 仲間

『ユウ…どうしよう』


『梨花、ほんとやばいね。どした?』


『私ね…もう笑ってほしい。めちゃくちゃ歳下の子好きみたい』


『ねーーーーやめてね犯罪』


私の言い方が悪かった。



『スナックのお客さんが連れてきた人でね、すごく歳下なの。でも車運転できるから、そんな子供ではないんだけど。もう、どうしたらいいかわからない。やばいーーやばいんだよ』


ユウは、スナックに限らず、男なんてあわよくば精神旺盛だから気をつけないと、しかも夜の店に来る人ってなると余計に危険だよー!と言うが、私もわかってはいる。

でもヒロは何か違うと、今までの経緯も話した。


『不思議だねぇ。思わせ振りかもよ?若い子ってほんとわからないから!』


そうかもしれないね。

まぁ、私が片想いな分にはいいよね?



ユウはいつも優しい事ばかりでなく、厳しい事も言ってくれる。

何かあるといつも真っ先に相談する親友だ。


ユウとナナは、私が高校を卒業してすぐに働いたアパレルショップの同じテナントビルで働いていた仲間だ。

休憩室が一緒で、そこでいつの間にか気の合う仲間が10人ほど集まった。

仕事で毎日顔を合わせ、仕事終わりも毎回ご飯へ行ったり、飲みに行ってはクラブへ行き、朝まで桃鉄をしたり、休日もみんなで一緒に遊んだ。

私の社会人としての人間が形成された時期を一緒に過ごした大切な仲間。

もちろん喧嘩もした。

けど高校生の時と違ったのは、モメてもきちんと話をしていた事だ。

話をする事で、よくなる事ばかりではなかったが、後腐れがなく、それで良かったと今でも思える。

私が子供を産んだ時は、みんな休憩中に代わりばんこに来てくれた。誰よりも早くに出産をし、子供たちもみんなに育てられたようなもん。

そのテナントビルがなくなり、みんなバラバラになってしまったわけだが、ユウとナナは近くに住んでいる事もあり、常に一緒にいる。

他のみんなとも年に何回かは集まっていて、久しぶりに会っても何も変わらない。本当に大好きな仲間だ。


だからこそ、今の昼の職場と夜のスナックに、

こんなにも邪悪な人間が存在するんだとショックを受けた。

今までが人に恵まれすぎていたんだ。

本当の人間界ってこんななんだなって、20代後半に知った。



今年はなかなかみんなの都合が合わず、

まだ一度も集まっていない。

ようやく集まれる日が決まったのが10月。

最後に集まったのは去年の年末だから、

10ヶ月ぶりだ。

私は楽しみすぎて、浮かれすぎていて、

仲間の事を考えられていなかった。



仲間と集まった日、そこに居たのは

かつてユウと想い合っていたタケルも居た。

タケルは去年も一昨年もその前も都合が合わず、

4年ぶり。

私が離婚してから初めて会う。

その4年の間に、タケルは同じ仲間のチカと結婚をした。

いつ、どこでその2人がそうなったのか、誰も知らなくてビックリした。

タケルの結婚を聞いた4年前、

同時期にユウも結婚した。


タケルとユウは、以前に関係が深かったが、

ユウは体調を崩していた為、それを理由にタケルとは一緒にいれないと、ユウから離れた。

あの時は、好き同士なのに何故別れるのか、

私の悪い頭ではわかってあげる事ができなかった。



ユウはパニック障害を患っていた。

結構な重度で、不安があるとすぐに過呼吸を起こしてしまう。

他人が運転する車にも乗れない。

ユウのお母さんか、旦那さん、ナナ、私の運転する車しか乗れない。

そんな自分を責めてなのか、精神まで病んでしまった。

普段は普通に生活をしているが、何気ない出来事で急に体調が変化する。

仕事もしていたが、融通のきく知り合いのカフェで、体調が良いときだけ出勤していた。

みんなが心配すればするほど、ユウは体調を悪くする。

自分より周りに目を向ける事の多いユウは、申し訳ないと思うんだろう。

だから私は心配しない。(フリをする)

心配なんだけど、ハイハイって、手を握りながら、いつも楽しかった頃の話をして側にいる。

その方がユウにとっては効果的だったらしい。



久しぶりのみんなでの集まりを楽しみにしている私とは対象的に、ユウは元気がなかった。

『具合悪い?』


『大丈夫だよ!久しぶりで楽しみだね!』

少し無理をしている様に見えたが、

何かあっても私が一緒にいるからと過信していた。



居酒屋に到着すると、すでに何人か集まっていて、その中に並んで座っているタケルとチカが目に入った。


あ…


私はやっと気づいた。

ユウは見たくないはずだ。

浮かれていた自分を今すぐぶっ飛ばしたくなった。

『久しぶり〜!あ、梨花はトイレ近いからそっちに座ってー!ユウは梨花の世話役で一緒にそっちね(笑)』

先に来ていたナナはわかっていたのだろう。

ユウと私を一緒に、タケルとチカから離れた場所へ誘導してくれた。

全員が集まって飲み会はスタートし、

久しぶりの再会に近況報告と、毎回する同じ思い出話で盛り上がった。

全員がユウとタケルの事を知っているからか、

タケルとチカの馴れ初めについては誰も触れない。

きっとユウはみんなの想いにも気がついているだろうが、体調を崩すことなく、一次会は終わった。


久しぶりの楽しいお酒に、すっかり酔っ払っていた私は二次会に行く気満々だった。

お店を出たその時、私の目の前で、チカがユウに話しかけたのだ。

私は咄嗟に

『チカー!ここはホラ、前にヤクザに絡まれた場所だよー!また私蹴られるとヤダからさ!早く行こ!』

チカの手を引っ張ると、ユウが苦しそうにその場に座り込んだ。

過呼吸だ。

最近ずっと元気だったから、きっと久しぶりの過呼吸だ。

すぐさまタケルがユウを抱えて道の端へ運ぶ。

その様子を、チカは悲しそうな目で見ていた。

『ユウごめんね。帰ろう。』


『私は帰るから、梨花は二次会行きな。自由に遊びに出れるわけじゃないんだから、今日くらい行ってきて』


大丈夫、一人で帰る、梨花は二次会へ行け

と帰ろうとするユウに、私とナナがついて行く。

するとチカが

『タケル!お酒飲んでないでしょ?送ってって!』

チカはわかっていて、チカなりの優しさなんだろうけど、今はダメだってそれは…

『梨花!付いてって!ほら!タケル家の場所知らないよね?』

咄嗟にナナが機転を利かせる。


『じゃ私も一緒に乗ってく!ユウを送ったら、二次会に戻ろう!』

お邪魔虫だったと思うけど、ユウの事、チカの事を考えたら、チカに付き添われても困る、2人きりも困ると思った。

それがいいねとチカも言ってくれて、私はタケルと2人でユウを家まで送った。

チカも優しい子なのだ。

きっとチカも辛いはずなのに。




私はユウ支えて隣に乗り、タケルの運転を誘導する。


『この3人懐かしいね』

タケルが言う。


アパレル時代、私の結婚前にユウ、タケル、私の3人でいる事が多かった。

みんなで遊んだ後、いつも残るのがこの3人だった。

ユウとタケルは2人きりになりたかっただろう。

それなのにいつも私も残ってた。

その時は2人がデキてる事を知らず、後から聞かされたのだ。

今思うと、私はめちゃくちゃお邪魔だったな…

と言うと、梨花がいたから楽しかったんだと言ってくれた。

若かった3人は本当にアホだった。

いつもめちゃくちゃにくだらない事ばかりして、為にならないおふざけばかりして、

毎日笑っていた。

朝まで一緒で、3人で出勤し、3人で帰る。

何ヶ月もこんな生活をしていた。

その中で、ユウとタケルが愛を育んでいたとも知らずに…て、どんだけ鈍感やねん私!!

と、めちゃくちゃ笑った。

ユウの発作も治まっていて、ユウの家につく頃には3人で笑っていた。


『梨花ありがとう!もう大丈夫だから、みんなの元に戻って発散してきなさいっ!

そしてタケル、ごめんね。チカと幸せになれよー!』

と言うユウに、元気が戻って良かったと思っていた。

久しぶりのこの3人。

懐かしい。

あの頃に戻りたい。

何も嫌なことがなく、ただ楽しかったあの頃に。

笑っていたら、酔いが戻ってきた。



この日が後に私の人生を狂わせる事も知らずに。




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